４．　Lemon　


キングの乗った飛行機が成田空港に降り立ったのは日がとっぷり暮れた時刻だった。

最初に飛んだ直行便。日付変更線を越えてもなんとか七日のうちに着いた。生憎こちらも雨模様。星は見えそうにない。

税関を抜けてタクシーに飛び乗ったものの、時計はとっくに予約時間を過ぎている。いくらかけてもショーコの携帯は不通。相当怒っているようだ。無理もない。

とにかく行ってみよう。店の場所を検索したキングはタクシーにそこへ直行してくれるよう頼んだ。



閉店間際のレストラン。ひとり、三時間待っていたというショーコの様子を、「ニカ」のフロントは気の毒そうに話してくれた。


「お代はよろしいですって申しあげたのですが、迷惑をかけたのはこちらだからと置いて行かれてしまって」

封筒に入れてあったお札。宝円からもらったボーナスがそのままか。胸が痛む。


「それはもう。おきれいにドレスアップされてましただけにテーブルでお一人はお寂しそうで」
「そうか」
「もう一度是非、おふたりでお越し下さいませ。お代はそのときのためにお預かりしますから」

初老のフロントはそう微笑んだ。必ず伝えると約束して店を出る。さしあたっての心当たりはふたつ、まずはlemonだった。





「あらやだ。王様のご帰還？」

相変わらずこの時間はひまそうな店内で、ふりむいたヒデミはシザーの手入れをしていた。貼られているポスターに目を遣る。シザーズ・イレブン。サッカーの試合みたいなタイトルが今年のシザーズのテーマだ。

初めてキングは実行委員の役を下りた。そろそろ他の連中にもしっかりして欲しいと思ったから。おかげで海外へ行くゆとりも出来たわけだ。去年のチャンピオンのヒデミは今年、エキシビジョンのみ出演予定と聞いている。


「なにのんびり見てるのよ。お姫さまには会ったの？」
「ショーコか？　いや、携帯にいくらかけてもつかまらん」
「朝からもう大騒ぎだったんだから。来るかな、来ないかな、来られない？　いやだーっとかなんとか」

「レストランは間に合わなかった」
「あちゃあ、やっぱり？　せーっかく可愛く決めたのに」
「どこに行ったやら」

レストランの後、ここには寄ってないらしい。


「ブーケは？」
「そうだな。悪いがこれ、預かっといてくれるか」

スーツケースを押しつけて慌ただしく去ろうとするキングを、ヒデミが呼び止める。


「ねえ、ショーコの気持ちちゃんとわかってる？」
「気持ち？」
「今日、キングと居たかったわけ」

面食らった顔をしたキングを見て、ヒデミがしかめ面をした。


「らしくもない。乙女心はキングの専売特許じゃないの。見つける前に察してあげなさい」


謎かけまでされて憮然としながら、キングはLemonをあとにした。






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