２．　トラブル　


急ぐときに限ってトラブルは降ってくる。




仕事の始まりは韓国だった。中国、香港、東南アジアからインド中東を廻り、ヨーロッパはイタリアフランスドイツと北欧三国。ロシアは次回に持ち越した。カナダからアメリカ。西海岸から東海岸へ飛ぶときはいつも、国の広さをしみじみ実感させられる。

時に四、五時間しか滞在しない国も含め、相当な強行軍をこなしながらも、海外の仕事でキングはあまり疲れを覚えたことはない。


世界は動いている。驚くべき早さで波は過ぎ次の波がくる。日本ではわからない予兆を感じ取るのが必要で大事なことだったから、年に数度は必ず海外を巡るようにしてきた。

彼の主たる事業は家具の輸入だ。見つけだしてきた海外ブランドを国内の企業に仲介してきた。キャリアはすでに十年以上。自ら動くフットワークの軽さと知識の深さ、眼の確かさで。海外、国内ともに深い信用を得ている。

今回もいくつかのブランドを開拓し商品サンプルを獲得し、商談をまとめた。概ね仕事は順調だったが、相手方との都合のすりあわせのため時間のロスはあった。おまけに最後の最後、ニューヨークで飛び込んできた話。

かねてより目をつけていたファニチャーアーティストの工房に招かれた。これを逃す手はないが、シアトルまでの往復は大幅にオーバースケジュールだ。ちらりと予定をさらったがなんとかなるだろうと踏んだ。実際、満足のいく結果が得られたし間に合って帰国できるはずだった。

しかし。



ジョン・Ｆ・ケネディ空港。朝だというのに真っ黒な空をガラス越しに見上げながら、キングの口をついたのはショーコの口癖。

「やっばーい、だな」


いざ帰国という段になって見舞われたトラブル。悪天候で飛行機が飛ばない。時計は刻々と時を刻むのに、出発便は一向に動く気配がない。


七月六日。
約束の七夕に帰国できるかどうか、わからなくなった。





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