路上で見つめ合うふたり。通行人も少なくないのに誰も邪魔しない。
アダムが先に口を開いた。


「悪かったな飛び出して。もう、帰るつもりだったんだ」

エヴァは何も言わない。


「怒ったのか？　でも、迎えに来てくれたんだろ」
「……怒ってるのはアダムの方でしょぉ」

エヴァにしては細い声が揺らぐのを聞いて、アダムは驚いた。
不安？　エヴァが？


「怒ってない」
「嘘ぉ」
「ほんとだって。ちょっと……焦ってたかもしれないけど」

「どうしてぇ」
「今の俺じゃどう頑張っても、キングにはなれない。わかってるから余計にさ」
「あったりまえじゃないのぉ。キングは二人もいらないわよぉ」

即座に否定したエヴァに少しへこんだアダムだったが、エヴァは淡々と続けた。


「何人いたってキングは手に入らないし、キングは地獄までついてきてはくれないものぉ。あたしが欲しいのは、地獄の果てでもびびらず運命を共にしてくれる忠犬なんだからぁ」

ふわっと、アダムは胸から重石がとれたような気がした。

言葉は大事だ。わかりきっていると思うことも、時に言葉で確認したくなる。まだまだ弱い自分を、エヴァはわかって譲ってくれた。ささいな事実に幸せを感じると同時に、よりエヴァを愛しく思う。

我慢できなくなったアダムは一気に距離をつめエヴァを抱きしめた。


「やだぁ、アダムったらだいったんー」

笑いながら耳元で囁くエヴァ。駄目だ。その唇を塞いでしまう。

ここは路上。深夜で少なくなったとはいえ途絶えない通行人からヒューヒューと口笛が鳴らされるが、どうしてもエヴァを離せない。エヴァもまた腕から逃れようとはしなかった。


今夜の喧嘩もどうやら地を固める雨で終わったようだ。せっかくの忠告だったが花を用意するひまもなかったな。あとでひとりアダムは笑った。



その後、ふたりそろって戻った「ブーケ」は、飲み放題の無礼講となり大いに盛り上がった。ここぞとばかりにベタつくふたり。心配していた礼がこれかと嘆きながら、スタッフたちがひたすら閉店を待ち望んだのは言うまでもない。



一緒にいられるなら。
地獄の果てだろうと大気圏外だろうと、どこまでもついていく。
覚悟はいいか、エヴァ？





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