ショーコと別れたエヴァは、本来の目的たるアダム捜索に当初よりずっと気合いが入っていた。ショーコと話して会いたくなったのもある。怪我の功名、棚からぼた餅……はちょっと違うか。

角を曲がって通りを横切りまた裏道に入って角を曲がる。そこでばったり出くわしたのはアダムじゃなくて、キングだった。今度こそ間違いなく。
棚から、ぼた餅。


「店主が店ほったらかして何してる」
「キングこそぉ。何してるのぉ」

何をしているかエヴァには確信があった。案の定。


「ショーコを見なかったか」

こういうところで見栄を張らないのも、キングの魅力のひとつだと思う。いつまでも自分を惹きつけてやまない。憎らしい男。


「さぁ。とっくにうちへ戻ってるんじゃないのお子様はぁ」

知らんぷりしたのはショーコに頼まれたからだが、ふたりのことに口出ししたとあってはエヴァの沽券こけん　に関わるからでもある。それにしても、あんなお子様とキングがねぇ。


「ぼつぼつ飽きてこないぃ？　お子様すぎてぇ」

つい意地悪く聞いてしまう。


「どっちかというと面白い。エヴァもそうじゃないのか」
「あたしぃ？」

どきりとする。ショーコに会ったのがもうばれたんだろうか。


「アダムだよ。もう何年目か知らないが、飽きてないだろう？」

あっさり返されるとぐうの音も出ない。飽きてない。それどころか。


「……ねえ、アダムと会わなかった？」
「さぁ。店じゃないのか？」

こういうところは自分とそっくりだ。一度態度を決めたらまず覆すまい。


「そぅ。ならいいのぉ」
「エヴァ」

行きすぎようとしたら呼び止められる。その顔が真面目。


「俺たちはずっと助け合ってきたろう。どんなときも」

また心臓がどきりとする。　え、え。　何？　どうしたの。


「だがどっちも何かトラブったら、自分が沈む前に互いの手を離す。巻き添えにはしない。俺たちはそういう関係だよな」

脈拍が早まる。彼のまなざしで。


「もし惚れた相手だったら。地獄であろうと俺は引きずり込む。逃がしはしない。おまえはどうだ？」

鼓動が止まりかけて、動き出す。やっぱりアダムに会ったんだ。


「本気の恋はそういうものじゃないか？」

長い時をかけてできあがった自分たちの関係は、色恋じゃない。エヴァもわかりすぎるほどわかっている。だからこそ安心して追いかけることができた。本気の恋に溺れても、死にかけても、助けてくれる人がここにいる。


「今更よぉ。せっかくキングと行くなら地獄じゃなくてぇ、天国がいいわぁ」
「同感だ」

見交わした眼に了解があった。ふらりとエヴァが歩きだす。


「じゃあまたねぇ」
「ああ」

通り過ぎたあと、ぽんと後ろから投げられた問い。


「で、ショーコはどっちに行った？」
「あっちぃ……っとと」

しっかり指さしてしまった方角へニヤリと笑ってキングは向かう。やられた。渋面を作ったエヴァだが彼の後ろ姿をよくよくみれば、頭の上で指が別の方角を指している。


「あらら」

自分たちはまるで、狐と狸の化かし合いだ。

「ヒデも足したら三つどもえかしらぁ」


苦笑したエヴァは向きを変え、地獄への道連れを探しに急いだ。





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