果てない闇の下、みゃあみゃあと私は鳴き続けていた。


どのくらいそこにいたのか、どこから連れてこられたのかもう覚えていない。覚えているのは白いくしゃくしゃのビニール袋に縁取られた、暗くて狭い空。たまに横切る影はあっても、立ち止まることなく行きすぎる。私にできるのは鳴くことだけだった。


力尽きかけた頃、唐突に空が翳った。現れた四角く黒い目に本能でおびえる。有無を言わさず抱き上げられのぞきこまれた。黒い四角の下から見えたのは、キラキラピカピカ光る本物の、眼。

輝く瞳の持ち主を私は同類だと信じた。音を立てぬ足取り、短くざらつくヒゲ。抱えられた懐で私は安堵し、同時に何かわからぬ興奮が全身を駆け抜けた。


見知らぬ部屋に連れてこられ、美味しいミルクをもらっても、その興奮は覚めることなくひたすら彼にまとわりついていた気がする。



主あるじ　との出会い。　そのまま居着いた私。
今日も彼は膝の上の私に言う。


「出会った時からとんでもなく刺激的な奴だったよ」

みゃあと、これまで私だけが返事をしていたのに。


「えー、ジンたらひっかいたの？　だいったーん」

最近増えた同居人は、子猫だった私に負けぬくらいテンションが高い。当時の主の苦労を、今頃になって私に偲ばせてくれる。


「キングったら。そういう女が好きなんだ？」
「思いがけなくて退屈しないだろう」
「うー。ねえそれってジンのことだよね？」


秋波しゅうは　を流し合いながらもまとまらない彼ら。この場では実りのない、大局的には実りのありそうな言い合いは、放っておこう。


いつもどおり午睡に落ちる私を、そっとなでる手がふたつ。大きな手からはあの夜と変わらぬ温もりが、小さな手からは控えめだが親愛の情が伝わってくる。ヒゲが震える。


私はゴロゴロと喉を鳴らし、感謝と満足の意を表したのだった。





　　　　　　　　　　　　　　　　　＜　Cat　meets　Man　／　end　＞