数日経った。
家族に囲まれ、のばらは満ち足りていた。

もちろん、小さないざこざはある。
荻はふたりのことを認めはしたが、ツタを目の敵にするのは相変わらずだ。思春期の少年として、泣きわめくところを見られた相手をそう簡単に受け入れるわけにはいかないらしい。

颯は荻よりもましな態度だが、時折見せる反抗的な目つきは荻と同じ理由だろう。共通の敵をみつけたためか、ふたりが以前よりも仲良くなっているのがおかしい。

ささらは、移り気な女性そのままにツタを熱烈歓迎して、荻と颯を嘆かせている。ツタもささらを気に入って、お姫様扱いするものだから、形勢は有利だ。

そのツタが敬愛しているのが祖母だ。何のこだわりもなくツタと打ち解けた祖母の懐ふところ　の大きさには、いつもながら感心させられる。

険悪だったり歓迎だったり尊敬だったり、要するにツタは見事に家族の一員に収まったといえる。のばらは嬉しくてしょうがなかった。


結婚は少し先になりそうだ。ツタのボディガードの仕事が詰まっていて、年末まではアメリカで働かなくてはならないらしい。

電話でボス相手にさんざんごねていたが、どれも指名されて受けた契約だし義理もあるしで、断れないとしょげていた。しょげるツタなんて初めてだ。笑ったら、にらまれた。

「俺は一日も早く君と暮らしたいのに、君ときたら」
「仕事はちゃんとやらなきゃ。ニューイヤーに私たちも始めるの。素敵じゃない？」
「くそ、まだ四ヶ月も先じゃないか」

「笑っちゃうね。大人のくせに四ヶ月も待てないわけ」
「契約は守るのが大人と思うけど」

例によって荻と颯が乱入し、喧嘩を売る。むっとするツタだが、よたよたと膝をつかんだささらに気を取られる。代わりにのばらが釘を刺した。

「いつか似たようなことを言ってた人たちを知ってるけど？」
「さあさあ、お茶にしましょうね。冷たいムースがあるわよ」

ぶすっと黙ったふたりに、祖母がクスクス笑いながら呼びかける。とたんに元気よくなるのは、ふたりだけじゃない。

「やった」
「僕、手伝うよ」
「ムー！」
「プリンセスもご所望だとさ」

わらわらとテーブルへ向かう家族を見つめ、のばらの胸に幸福感が突き上げた。


苦しいことも悲しいことも、辛いこともあった。
それでもこうして、ここにいる自分。

同じところにはいられない。
この先にもやっぱり、苦しみや悲しみはあるだろう。
でも、おそれずに進んでいくわ。

私はのばら。
野に咲くばらだもの。


「ローズ、来いよ」
「のばら」
「おばさん」
「らー！」
「あらあら」

ささらの声に祖母が、みんなが笑う。
のばらが応えた。

「今いくわ」


のばらの髪を光が縁取り、天使の輪のように輝かせる。
その微笑みは家族を、愛する人を。
楽園の向こうの、明日を見つめていた。





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