水がきりっと締まってきた。

そう思った彩芽は、カレンダーを見上げた。
最後の一枚の、最初の日だわと納得する。

水の温度で季節を感じるようになったのは、花屋になってからだ。

やがて刺すようになり、しびれるほどに変わる。
辛くても、お湯で花の仕事はできない。

どれだけ便利にな時代になっても、元気と気合いで乗り切るしかないこともある。
仕事のそういう融通のきかないところも、彩芽は嫌いではなかった。


冬の水は冬の匂いがする。
乾燥した空気とはまた別の、透明で澄んだ冬の匂い。

周囲では山ほど仕入れたポインセチアが、これも冬の匂いを発散している。
ハロウィンが終わるや始まっているクリスマス商戦だけど、１２月の始まりはやっぱりこれだと思う。

しゃがみこんでなでてやりたくなるような、緑と赤のコントラスト。
見るだけで笑みがこぼれる。


「何、にやにやしてんだよ」

顔を上げたら、右生がいた。
お届けに向かうのだろうか、スーツ姿が格好いい。

いつになっても悔しいくらいドキドキさせられる。


「忙しそうね」
「クリスマスまで２４日もあるのにな」
「２４日しかないのよ」
「そりゃ大変だ」

すっと身を屈めたと思うと、キスを盗まれた。
文句を言う間もなく身を翻し、肩越しにニヤッと笑う、彼。


しょうがないひと。


「行ってらっしゃい」

彩芽も笑って手を振った。
冬の匂いの中、煙草の香りがかすめて、消えた。





　　　　　　　　　　　　　　　＜ 　winter　perfume　　／　end　＞