そのままでも美しい花だって、デザインやラッピングで一層引き立つ。というわけで特別な今夜のために、彩芽は下着もおろしたてだった。白じゃ平凡。黒は憧れるけれど今の自分には背伸びしすぎ。悩んだ結果は淡いパープルだ。

キャミソールまでおそろいのちょっと値の張る一式だったが、ワンピースを脱がせた右生が目を見張って「エロい」と囁いたから、張り込んだ甲斐はあったと満足した。


首筋から肩へ伝い下りる彼の唇。肩先の丸みを愛しむように食まれると、あごがあがって腿の奥が濡れる。細いブラの肩紐に彼が歯を立て引っ張った。鼻先でカップを押しやられ乳房が露わにされる。

あまり大きくない胸が実はコンプレックスだが、彼はいつもしつこいほどに愛撫する。少しは大きくなったんだろうか？


「こら」

耳をかじられてヒュッと息が鳴った。鼓膜まで数センチの距離で聞かされる彼の声にはいつもドキリとする。心臓がとまりそう。


「何考えてる」

快感以外を追うといつもばれる、ってことは彼の方が余裕なのだろう。自分はすぐ息が上がり言葉も為せなくなるのに。ずるい。

軽く睨むと表情をほころばせ、散々嬲った胸をようやく彼が解放した。ベッドサイドに手を伸ばすのは捜し物だ。準備をほどこすのもあっという間。すでに濡れ尽くしている自分が恥ずかしくなる。

両膝をぐいと押し開かれる時、いつも不安と期待できゅうと胸が締め付けられる。繋がっていく感覚に身震いして、知らずに止めていた息をはーっと吐いた。


彼で一杯になった身体で彼を抱きしめ、やっと落ち着く。満たして満たされる至福は刹那。次の頂き目指して駆け上がるまでの、一刻だ。


ずっと仕事に燃えてる。思うようにレベルを上げられなくて落ち込んだり、人と比べてしょげたり、ミスしてがっかりしたりいろいろあるけれど、今の仕事が好きだ。

その一方で、彼に抱きしめられるこの時のために自分は頑張ってるのかもしれないとも思う。仕事と彼。選べなんて言われることはないだろうけれど。　


「また別のこと」
「え、あっ」

ぐいっと引き起こされて彼の上になる。自重で深くなる繋がりに悲鳴でのけぞる。胸の実をカリっと囓られる。

「よそ見するなって」
「んっ、あ、あんっ」

どっちも真実。どっちも大切。どちらが欠けても自分じゃなくなる。彩芽の本音を、たぶん右生もわかってる。


このままずっといられたら。ささやかなようで大きな野望は彼がここにいるからこそ。だから伝えたかった。


Happy　Birthday　to　You．



それからいくつもの波を越えた。打ち上げられる夢の果て。
満天の星が祝福を囁くのが聞こえた。
彼とふたりで。





シャワーを浴びた身体をぬぐい、タオルを洗濯機に放り込む。キッチンに戻ってきた右生は冷たい水をグラスに一杯飲み干した。疲れと爽快感とどちらが強いだろう。一番は満足感か。カウンターに生けられたサンダーソニアにそっと触れる。

ベッドの上、眠り込んだ彩芽がころりと寝返って背中を向けた。タオルケットもはね飛ばしている。寝相が悪いな、風邪引くぞ。少し蒸し暑くなったので、除湿をかけたエアコンが細く鈍い音を立てている。

ベランダのサッシを細く開けると、薄ねず色の空がぼんやりと煙って見えた。あの向こうに幾つもの星があるなんて、知らなければ信じないだろう。


生とは果てない闇に星を刻むようなものかもしれないと、ふと思う。

つまらない過去は黒い紙に針で空けた穴。集めてもわずかな星屑にもならない。比べると現在いま　、彩芽と過ごす日々は少なくても、一つ一つがくっきりと鮮やかなきらめきを主張する。

今日見た映画の老夫婦のようにいつかそれらを振り仰ぐまで、自分たちは一緒にいるだろうか。いられるだろうか。


らしからぬセンチメンタルを笑った右生は、戸を閉めベッドに舞い戻った。枕元には目覚ましと携帯が二つ。それから彼女がくれたアッシュシリンダー。ひとつ毛布に潜り込み、彩芽を背中から抱き寄せる。明日からまた忙しい。



彼女がくれた一日の終わりは、気持ち良い疲れと眠り。
まぶたの裏、揺れるオレンジ色に夢へと導かれる。

出会えたことが祝福なのだと、花が笑った気がした。





　　　　　　　　　　　　　　　＜　Blessing　to　You　　/　end　＞



※サンダーソニアの花言葉　「共感」「福音」「祝福」「純粋な愛」