「Truble　Vacation」　８．End of vacation to Promise

「Truble　Vacation　２×２」　８．End of vacation to Promise　－夏空の約束－

翌朝、バイキングのレストランで。
あたると天羽、透と香夜の４人がテーブルを囲んでいた。
夕べのあたるの心配は、どうやら杞憂に終わったらしい。
香夜が携帯を取り出して、二人の番号を聞いている。

「又、東京でも逢いたいから。いい？」
「ええ。」
あたるもニコニコとケー番を教えている。
男同士も何となく同じ動作。

「あなた達には他にもお願いがあるの。」
「何ですか？」
「結婚式に来て。」
「・・・え？」
「は？」
二人が同時に香夜の顔を見直した。

「だってあなた達と逢わなかったら、
　この旅行でひっくり返ったかも知れないもの。あたし達。」
「大げさですよ。」あたるが否定する。
「ううん、ほんと。だからね？」
「で、でも・・。」
口ごもるあたるの代わりに、天羽が本音を聞いてやる。

「気持ちは嬉しいけどさ、
　そっちの結婚式って凄そうで・・・ちょっと勘弁かも。」
「え？」
「大丈夫ですよ。普通に教会でやるから。」透がフォローする。
「そうなんですか？」

「うん。式は簡素に。内輪への披露宴は改めて。」
「だから、当日は式と気軽なガーデンパーティーなの。
　それならいいでしょ？」
目を合わせるあたると天羽。・・・まあいいか？

「日取りはいつなんですか？」
「１１月。帰ったら招待状にかからないとな。」
「二人とも約束ね？」
こうまで言われたら頷くしかない。おめでたいことではあるし。
「・・・じゃお言葉に甘えて・・って今回、そればっかり。」
あたるが恐縮するけど。

「よかったー。」
「ドタキャンの場合もちゃんと連絡くれよな。」
「良之っ！」あわててあたるが叫ぶ。二人が苦笑する。
「ったく口が悪いわよね。最後まで。」
「地なんでね。」涼しい顔で口元をゆがめる天羽。

「でも。そういうあなた達は？」
「え？」
「一緒に暮らしてるんでしょ？　結婚の予定はないんですか？」
透の思いがけない、ストレートな問いに。
あたるも天羽もただ眼がまん丸。言葉はない。

逆に透が焦る。
「ーあれ？　そんなに意外でした？」
もっと軽く受けるかと思ったのに。
「いや・・・なんか・・・な？」
「えっと・・・ね？」
あやふやな微笑を交わしてやっぱり言葉が出ない。

「不思議な人たちねぇ。あたし達なんかよりずっと、
　落ち着いた関係にも見えるのに。」
「落ち着いて・・・ます？」あたるが首を傾げる。
「一緒に住んでるなら、籍を入れるか入れないか。
　それだけでしょ？　悩むかな。」

「人それぞれ。
　一緒に暮らすのと結婚ってのは又、別だろ。たぶん。」
「そうかしら。」
今度は香夜が首を傾げる。
「そりゃ子どもでも・・。」
「今はこの形が楽で、好きなんです。」
あたるが柔らかく、でもきっぱり言い切った。

「まだ、先の事はよく見えないから。」
ね、と向けられた笑みは穏やかだったから、
一瞬天羽の中に立ちかけた泡はすぐ消えた。
「だな。」
「ふぅん・・。」
二人の様子に、なんとなく納得する向かいのふたり。

「ま、月並みだけど。おとぎ話じゃないから。
　結婚の先にはそれまでよりも長い年月があるわけだろ？
　選ぶ時期や形は皆違うってことさ。」
透と香夜は口を閉じてしばらく考え込んだ。
その先の、今までよりも長い年月ー。

「お二人はお二人の形にたどり着いたんですよね。」
やっぱり笑顔で後押しするみたいに言われた言葉に、
ふたりはホッと頷く。
「・・・そうね。」
「うん。」

「お式、楽しみにしてますね。」
「願わくば、彼氏をもういじめるなよ。」
「それは僕からもお願いしたいな。」
「透ったら！」

笑いながらも、４人は確認していた。
香夜と透はこれからの自分たちへの覚悟を。
あたると天羽は、不確かだけど歩いてきた現在をー。

再会を約束して香夜達と別れ、ホテルをチェックアウトして。
あたると天羽はレンタカーを返しがてら、ラストドライブしている。
今日はあたるの運転。
天羽の煙草の煙が窓からの風に千切れていく。

「ずっと天気良かったな。」
「言ったとおりじゃでしょ。」
「何が？」
「晴れ女。」ちょっと威張って。

「そんなことも言ってたな。泣いてたくせに？」
「そ、それとこれとは。」
「バカ、前見てろって。危ない。」
こっち向いて文句を言いかけるあたるをあわてて注意する。
仏頂面で前を向いて、でも思い出したように。

「綺麗だろうね、香夜さん。」
「ん？」
「ウェディングドレスでしょ？　教会なんだから。」
「ベールで彼氏よりさらに背が高くなるぞ。」

「またぁ。綺麗なのは確かよ。
　背の話ならさくらとゲソもそうだったけど、
　ゲソはにやけっぱなしだったもん。透さんだってきっとそうだよ。」
「だといいけどなー。どうもあの二人はまだ危ないぞ、きっと。」
「良之～。」

通りがかった岬の突端で二人は車を止めた。
鮮やかな青空と碧の海が広がる眼下。
見事な光景に見惚れる。

「お休みって早いよね。過ぎるの。」
「今回は特にめまぐるしかったしな。」
「ほんと。あっという間。でも二人に逢えて楽しかった。」
「まぁな。」
「お式にまで出る事になるなんてー。面白いよね、出逢いって。」
「めんどくさい。」
「またー。約束したんだからね。」

あたるの言葉に、ふとふりかえる天羽。
潮風に髪をなぶられながら、視線を海に注いでる横顔。
穏やかな眼の色。

「・・・おまえさ。」
「ん？」
「約束って・・・欲しいか？」

きょとんと見返すあたるに、天羽は真顔。
あたるの表情は光を弾くビー玉のように、クルクルと色を変える。
その色は。

「じゃ約束して。」
あっさり言われてギョッとした天羽。
「あたしがライセンス取ったら、一緒に潜ってくれること。」
「・・・は・・？」
言われた言葉が届いて、
それこそきょとんとした天羽にあたるが吹き出した。

「お・・まえなっ」
詰め寄られてスルッと逃げながら悲鳴を上げる。
「きゃー、なに？　立派な約束でしょっ？」
「人が真面目に聞いてやってんのにっ。」
「だってーっ。」

歩幅もリーチもかなうはずもないから、すぐつかまって。
捕獲された腕の中で見上げる。
「約束ね？」

念を押すのはやっぱり笑顔。
「それでいいわけ？」のぞき込む天羽。
「まだ、最初のも残ってるよ。覚えてる？」
天羽は視線を海にやる。

「くじらだろ。－－あたりまえ。」

彼方。
夏空の果てで重なる空と海。そこでならくじらも空を飛びそうだ。
一緒に。とばすのはいつだろう。

「とりあえず２つあれば十分じゃない？」
海へと視線を重ねながらあたるは言う。
そうかもしれない。そうじゃないかもしれない。

『選ぶ時期や形は皆違うってことさ』

自分で言った台詞のくせに・・・な。

「ねえ、遅れるよ。あたしまだ、佳織さんにお土産買ってないし。」
「俺も会社の連中に。」
「レンタカーも返さなきゃ。行こう・・・ん・・っ。」

見上げたあたるの唇に、天羽が唇を重ねた。
その瞬間を掠めたカモメは、彼方の水平線をめざしていく。
向こうに何があるのか、ふたりにもわからないけれど。
今はただ、共に歩こうと思う。

くじらをとばす、その約束をみつめながら。

沖縄の道。
笑みをうかべる天羽を乗せて、あたるが鮮やかにハンドルを切る。
バカンスの最終カーブを、二人の車が曲がっていった。
笑い声を残してーー。

　　　　　　　　　　　　　＜　Truble-Vacation　２×２／End　＞

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