番外編２．　＜　聖なる　＞


きんと。
凍し　みた空気が張りつめる冬の夜空を、トラが眺める。

空の果てまでも澄み渡る中。
瞬またた　く星の位置が告げる日。


昔どこかで聞いたことがある。

「今宵はあの星の下で、尊い人が生まれた聖なる夜」


その人が尊いのか。
その夜が尊いのか。
あの星が尊いのか。

トラの問いには誰も答えなかった。


「違うよ」

あっさりとねこは断じる。


「生まれることが尊いんだよ。生まれたから此処にいる」

彼方に星が輝くのは、星が生まれたから。
トラがここにいるのは、トラが生まれたから。


「生まれたから、いつも特別」

ねこにしか通じない理屈を、トラは黙って聞く。


凍り付きそうな冬の夜、埋もれそうな雪の上を走って。
私に逢うために君は来る。
どんな夜も。

君がいる、その特別。


黙ったままのトラにすり寄ると、嬉しげに見上げてくるねこ。
その目に星がある。
彼方にあるはずの星が瞬く。

トラは身をかがめると、濡れたねこの毛並みから雫を舐め取る。
その温もりにねこが震えると、目を細める。

「冷えすぎたね」


華奢な首筋をくわえて、トラはねこを背に乗せる。
暖をとる場所まで歩き出す。
トラの背で揺れながら、ねこが見上げる空は遙か。


いつの夜も。
いつの昼も。
たとえ星が見えなくても。

君がいるなら世界は特別。
生まれて消える命ひとつを、そう思う不思議。

尊いのは出逢い。
決して言わないけれど。


君と過ごす今が、私の。
聖なる日。





　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜　Holy　Day　／　了＞