１２．　＜　影絵　＞


ほら、ごらん。

意地悪さは承知の上。
トラはねこをみつめる。


トラの放った言葉を、いつも光のように跳ね返してくるねこが。
丑三つ時の闇のように、黙り込んでいる。
身体はもちろん、心の震えまでが目に見えるようだ。


それが他の誰かのためなら、許せないと知っているのに。
自分のために震えるねこは、甘美な喜びをトラに与える。


なんて性悪だろうね。
尚更にねこを震わせるだろうと、知っていて浮かべる笑み。


嘘は言ってない。
これまでの自分に好きなものはなかった。
「好き」と言葉にするほど、執着するものなど。


ありはしないと思っていたのに。


ねこをみつめる自分は予測している？　期待している？
欲しいのは繰り返してきた確認なのか。
それとも。


トラの笑みは全てを覆い隠す、厚いとばり。
ねこに見えるのは、残酷なほど綺麗な笑みと、それを飾るひげだけ。
それだけ。

さあ。
どうする。


向かい合った二匹はまるで、写し取られた影絵。

動かないトラ。
動けないねこ。

時だけが見えない針を進めていく。