夏は難しい季節だ。

自然に任せれば季節の植物は、その季節に堪え忍ぶ力を備えもっている。夏もしかり。放っておいても乗り越えていくのだろうけれど。人が育てた花々はそうはいかない。屋内の環境は尚更だ。

或る意味、夏の暑さよりも厳しいかもしれない。季節に似合わぬ気温と空調による乾燥にさらされて、でも彼らは懸命に与えられた環境で花開こうとするから。こっちも頑張るしかない。


まだまだ経験も足りずわからないことも多くて、俺は神経をすり減らした。自分の担当を持って初めての夏。体がきついのはともかく心が萎えてきていた。どこへ行っても、誰も花なんて気に留めていない気がした。

暑さと仕事に追われ、無表情で行き過ぎる人。そこにあるだけの花。
取り残される想い。
全部チェックして回ると夜にはヘトヘト。

そんなある日だった。



お気に入りのビルへ最後に足を運んだのは、ゆっくりチェックできるのはもちろん他にも理由があった。人気のなくなったビルに入るなり彼女を眼にして、疲れた頭でラッキーと思ったら。

「このスペースってすごくいいの。ほら、いまあたし風だった」


聞こえたその言葉に貫かれた。動けなかった。
この女性ひと　は、俺が作ったイメージを。この場所にこめた想いを。
ちゃんと受け取ってくれてる。

心が震えた。


今思えばあれが、ほんとの意味で彼女に捕まった理由。
彼女なら、わかってくれる。
全て。きっと。

そう確信した瞬間。



その時はただ突っ立って、取り乱さないのが精一杯。華奢な姿が歩き去っていくのを見送った。今までも惹かれてきた彼女が、改めて心に焼き付いて。


俺が創った緑の箱庭。
そこを渡る風が確かに彼女の心にもそよいでいくのが見える。


泣きたいくらい嬉しかった。
夏の、ニアミス。





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