外回りの身に夏はきつい。
暑さがきついんじゃなくて、体が温度差についていかなくなる。

外気は常に３０度以上なのに、ビル内はヒヤリと冷える。自社でもクライアント先でも、設定温度はやっぱり低め。入った瞬間はともかく、汗が冷えるにつれゾクッとすることも多い。そして又飛び出していく炎天下。その繰り返し。

「やだ。年かなぁ」


お肌の曲がり角ってほんとにあるんだ、と実感しそう。光姫はそんな自分がちょっと嫌だった。


とはいえ、夏は続く。夕方になっても一向に下がらない気温はやっぱりこたえる。玄関ホールへ踏み入れると、今日もホッとため息が出た。

「あぁ、ちょっと一休み」


定時までは人の多いビル内も、終業後はガランとしていて。光姫の独り言も聞かれる心配はない。休憩スペース。光姫のお気に入りの空間だ。誰もいなかったので、ちょっと雑に体を投げ出してみる。１日歩けば足はきつきつ。悲鳴を上げてるけど聞かぬふり。

視線は習性で花へ。


週ごとにどこか変わる花のオブジェは季節をとらえてしかも心和ませる。真夏の８月の今はというと、一面に緑をはってあった。青や黄や紫が刺してあるその光景に、吹き渡る風を感じる。

風になれそうだ。いいなぁ。
光姫の表情が緩む。


「あれ、織田さん？」

声をかけられてふりむくと同じ課の後輩だった。よっと腰をあげる。


「今戻ったんですか？」
「そう。ちょっと休憩」
「織田さん、ここ気に入ってます？」
「バレてる？　このスペースってすごくいいの。ほら、いまあたし風だった」
「はぁ？」

ポカンとした彼に笑いながら気付いた。すぐそこ。ＧパンにＴシャツ、キャップを深くかぶって立ってる青年。どうみてもサラリーマンじゃないし。通りすがりかな？

さぁ、行かなきゃ。


光姫はしゃきっと背筋を伸ばした。隣で妙に感心した風の後輩。

「織田さんってユニークですよねぇ」
「そう？」
「ええ。だから凄いのかも」
「褒め言葉にしといてね。帰るんでしょ？」
「はい。お先に。」
「あたしも片づけてこよう。お疲れ」

後輩と別れたあとのエレベーター前で光姫はもう一度振り返る。
さっきの青年がこっちを見てた？　気のせいかもしれないけれど。



明日もきっと暑さは続く。でも。
元気出して行こう。

草の海を渡る風に想いを馳せて。





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