9. 満月 娘 （危ない侍と娘） 9. 満月 娘 （危ない侍と娘）
丸い月を見上げると、二つの思いがこみあげる。 満ちた安らぎと、満ちてしまった不安と。 それが今の自分なのだろう。 家族と過ごした頃、見上げる月はただ美しかった。 暮らしは貧しくとも、不満はなく。 妹の手を引き、母を、父を、呼ぶ。 空の円に口をそろえてあげる感嘆の声。 安心してそこに居た。 一人になった時に、見上げた月は哀しかった。 黒に重ね塗ったような蒼い空に、 真円の輪郭はくっきりとして。 彼岸と現世を分けているようで焦がれた。 そこに家族がいるのだと。 そこには自分はいけないのだと。 否応なく知らされた。 そうして。 侍に逢って。 今夜は満月。 満ちた月は欠けて痩せて。でもまた満ちていく。 人の手の及ばぬ理（ことわり）の中。 人も又、理（ことわり）の中。 侍がくれる安らぎと不安で、満ちて欠けて、又満ちて。 私は夜空の月になる。 潮の満ち引きの繰り返しのようで。 でも、決して。 消えることはない。 あなたの想いを抱いて。 今宵の私は、欠けることのない満月ー。 ＜ 9 / end ＞ |
★あとがき★
この話は ５．あか と対になります。あちらは侍サイド。
満ち欠けしながらも、抱き続ける想い。
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