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 エピローグ −Honey Night−
摩天楼から見下ろす街は、色ガラスを砕いてばらまいたようだ。 輝きと瞬きが闇にふちどられる美しさ。 闇すらも甘く。 就職したばかり。おまけに勤め先はめったやたらに忙しいところで。 式はともかくハネムーンの時間的猶予なんて美琴にはなかった。 それなら代わりに３日間、シティホテルでゆっくり過ごそうと羽矢は提案した。つまりはお互いさえいれば、どこで過ごそうとハネムーンなのだから。 加えてそのホテルは以前、美琴が雑誌で見て憧れていたところだったため、結局何処へ行くよりも喜ばれて。 彼女に関してはどこまでも抜け目ない男だ。 キングサイズのベッドに横たわる二人は、熱を交わした直後のけだるさと、濃密な空気に身を委ねている。 「やっぱ、ウエディングドレスを脱がせたかったなぁ」 残念そうな羽矢を美琴が見上げる。 「琉斗さんたら。あれはレンタルドレスなんだから返さなきゃ」 「買えばよかった」 「もう。そりゃあたしだって気に入ったけど。ドレス着たままタクシーに乗って、ここのフロントで記帳するの？」 想像するだけでおかしい。クスクス笑っていた美琴は胸元に触れた唇に息を吸い込む。声が肌を震わせる。 「抱いてきてやるよ。ロマンチックじゃねえの？」 「そういう話じゃ・・・や ・・・んも・・・」 「ウエディングドレスが女の夢なら、それを脱がせるのは男のロマンってね」 「・・・がっかり、した？」 荒い息で上目遣いに甘えられるのもまた、ロマンだろう。 「まさか。重要なのは中身だし」 美琴がさしのべた手を握ると、薬指のふたつの指輪にも口づける。 「ふたつともしてるのか」 「嬉しいんだもん」 頬を染めて美琴が呟いた。 エンゲージリングは中央にエメラルドが３つ。ダイヤが上下にラインをつくる。どれも小粒だがすっきり綺麗なデザインは羽矢が選んだもの。プロポーズと共に彼女に渡されたのは去年のイブだ。 マリッジリングはごくシンプルなシルバー。 入籍した４月にそろいのを二人で買ったのだが今までつけていなかった。やっぱり式と披露が節目だと、胸の奥でどちらも思っていたのだろう。 羽矢の指と並べて二人は見入る。 「やっとだな」 「うん。素敵な１日だったね」 「ああ」 見合わせる微笑み。美琴の眼がまた潤んだ。まぶたを閉じると抱きしめられる。キスはすぐ、熾きの情熱を煽いで炎へとたきつける。 深い闇も今夜はとろりと、濃く甘い蜜になってふたりにまとわっていく。 熱は冷めない。いつまでも。 幾つもの日々を越えて辿り着いた、ここは新しいスタートライン。 離れずに放さずに。 途切れることのない軌跡を描き続けよう。 あなたとふたりで。 ＜ Start Line / end ＞ |
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