一年ぶりに会った桐子は少しやせていた。
二人目の妊娠で悪阻がひどかったのか。

生真面目な彼女の生真面目な苦しみは、若菜にすれば尊敬に値する。
だから彼女に惹かれたのかもしれない。
自分とはまったく違うひと。


『今のあなたが一番好きよ』


そう言われて嬉しく思う自分を、せせら笑ってしまいそうだった。
見栄ばかり、格好ばかり。
情けない。
見知った人すべてから離れたのは正しかった。


「そこがあなたの欠点ね」
双葉にはそう断じられた。
「自分に価値を見つけないと。もっと自分を好きになりなさい」

どうしたらそんなことができるのか、全くわからない。



仕事帰りに寄ったのは、フランス風のお総菜を売る店だ。
夕食はサラダとパテと鶏肉のトマト煮込み。

飲み残しの赤ワインをグラスに注ぐ。
酸っぱい。それから苦い。　今の自分そのものだ。
立ち上がるとベランダに出た。


まだ夜は風が冷たかった。
臨む景色は暗く、明かりも少ない。

ここで働くようになってもうじき半年。
それなりに知り合いはできたけれど、知り合いでしかない。


『さようなら』

桐子の声がこだまする。
馬鹿げている。　寂しいなんて。

直哉に会いたいと、思うなんて。


夜景がぼやけた。
小さな明かりがチャイムのようにぶれる。

かみしめた唇は血の味がした。





　　　　　　　　　　　　　　　　　＜　witch's tear /　end＞