「あのねぇ、あんたとキングじゃ年季が違うのよぉ。惚れた長さってのがぁ」
「俺よりあいつに惚れてるって言いたいわけか」
売り言葉に買い言葉。
わかっていてもエヴァはいつもの調子で叫んでいた。
「文句があるならぁ、とっとと出て行けばぁ!」
アダムはしかしいつもと違った。店主をなだめることも諫めることもせずに、言われたとおりカウンターをくぐるとそのまま出て行ってしまった。
唖然としたのは残された方で。
「ちょ、エヴァ、言い過ぎ」
「アダム? おい!」
「追っかけないと」
二人の喧嘩はいつもなら地を固める雨。こんなことは初めてで、スタッフ全員泡を食ってオロオロしている。その彼らよりも実は、エヴァの方がずっとあわてていたのだが。
「勝手にすればいいのよぉ!」
そこで弱音が吐けるぐらいなら「ブーケ」の店主なんかとっくにやめている。虚勢もはったりも張りとおし言い通せば本物になると。浮き沈みの激しく厳しいこの世界で、エヴァはそうやって己だけを頼りに生きてきた。そう自負しているのだから。
「ほらほらぁ、開店準備! 急いでぇ!」
こうなったエヴァに意見できる者など、ブーケにはいない。閉まったドアを心配そうに眺めながら、誰もが仕方なくそれぞれの仕事を始めるしかなかった。
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