電車で居眠りした彩芽は、駅を乗り過ごしそうになった。

あわてて飛び降りたホームに、人がたくさん居て驚いた。電光板の横の時計を見ると、日付が変わるまで三十分を切っている。

クリスマスだし連休だし。
そりゃそうよね。
あぁ、今年はケーキも準備できてないなぁ。

自分一人が働いてるわけじゃないのは百も承知だけれど、にぎやかな中に混じるとまるで白い羊に混じった黒い羊だ。

落ち着かないし、下降気分。
がんばって働いた一日分の疲れが、はしゃいだクマみたいに肩に背中に覆い被さってくるのを感じる。


重いってば。
早く帰ろ。


とにかく先を急いだ。
疲れたし寒いし眠いし。
慣れた道をわき目もふらぬサイのように突進して。


ひゅうっと、突風に見舞われて足が止まった。
身震いで、目が覚めたみたいな錯覚にとらわれる。


雪が降っていた。
いつから？


星は見えない。月も見えない。
いつだって明るい東京の空も、真夜中は闇を装って、黒い。
その果てから舞い踊る。

白。
白。


雪はどこから雪なんだろう。
どうして雪になるんだろう。
どうしたら、雪になれるんだろう。

意味のないことがいくつも浮かんでは消える。
泡のように。

見上げていると自分が上っていくようだ。
空へ。
その向こうへ。


「　あーやーめ　」

空中から地上へくいっと、引き戻されたみたいだった。


「ゆ、う」


彩芽が立ち止まったのはコンビニの横だった。
一足早く帰ったはずの右生が、コンビニの袋を下げて首を傾げている。


「買い物？」
「小腹が空いたから。そっちはどした」
「ううん……うん」

曖昧に言葉を濁して、空を見上げる。

「雪だなあって」
「うん？」
「雪になれそうだなって」

横に立った右生も空を見上げているのがわかる。ふうん、と気のない返事で、大きな手が肩を抱き寄せる。

「なに？」
「いや。飛んでかれちゃ困るし」

なにそれと見たら目が合って、唇も合わさる。
彼が下げたビニール袋がシャンと鳴った。
シャンシャン。

トナカイの鈴みたい。
ささやいたら、彼が笑った。

「鈴じゃなくて、入ってるのはコンビニケーキ」
「ケーキ？」
「食べたかったろ？」
うなずくのもしゃくで黙ると、また笑う彼。

「俺は、おまえ専用のサンタだから」

バカばっかり。
言いかけた唇がまた塞がれる。
嬉しいのにつきんと、胸が痛むのは、悔しいから。

温もりが溶かしていく疲れや強ばり。
コンビニから聞こえる歌。
誰かが歌ってる。恋人はサンタクロースって。


あたしも、あなたの。
サンタになりたい。



クリスマスの雪夜。
淡雪がイルミネーションのように、ふたりを飾って消えていった。





Merry 　Xmas 　for 　You ！





　　　　　　　　　　





　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜ 　snow　night　　／　end　＞