どこまで来たのだろう。
ここはどこだろう。
今更のようにねこは思った。
トラには聞いたことがない。
どこへ行こうと構わなかった。
トラの隣が、ねこの居場所だから。
旅に出てずいぶんになる。
ねこは旅の間に、大きくなった。
大人になった。
けれどどれだけ大きくなっても、トラにはかなわない。
今でも昼寝はトラの上だ。
「だって温かいから」
「重いけどね」
「うそ」
「嘘だよ」
「もう」
トラは相変わらずそっけなくて、優しい。
そこが好き。
ずっと好き。
今、二人は深山の奥の洞窟にいる。
外は雪が降っている。
しんしんと、しんしんと。
すでにかなり積もっている上に、新しく積もる白。
誰も侵したことのない、真新しい風景。
真夜中だというのに、どこもかしこもまぶしく輝いている。
「今夜は不思議」
「何が」
トラの声は眠そうだ。
「しんとして、きんとして、厳か」
「あぁそういえば、生まれた日だよ」
トラがあくびをしながら言った。
「誰が」
「誰かが」
「きっと」
呟いたら、寄り添ったトラにのぞき込まれた。
「きっと?」
「世界が生まれたのかなって」
「どうして?」
「だって、ほら」
ねこは外を見遣った。
つられてトラも目を向ける。
「たったいま、生まれたみたいにきれいな世界」
トラは珍しく皮肉を言わなかった。
代わりに一言。
「聖なる夜か」
星がひとつ、流れていく。
「願い事願い事」
ぴんとねこが耳をたてると、トラが声を立てずに笑った。
「もう寝るよ」
「うん」
ねこの願いは一つだけ。
ずっとずっと、トラと居られますように。
ねことトラが寄り添って眠る、聖なる夜。
生まれたばかりの世界も、ふたりを囲んで眠っていた。
< Holy Night / end >
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