今年も体育館は人でいっぱいだ。

袖に控えた林子は、人いきれで汗をにじませながらも会場を満足げに眺めた。去年、林子が企画発案し具体化させたファッションショー。今年は押しも押されぬ文化祭の目玉のひとつだ。嬉しい。

「先輩、すごいですね」
「ふふ。地域の店舗活性化にも一役買ってるわよね」
「一役どころか起爆材ですよ」

生徒会一年目で同じ会計の平山　桃が目を輝かせる。素直で目端の利く後輩は林子のお気に入りだ。

「でもよく考えましたよね。市内の人気店と一般生徒を組み合わせたコーディネートファッションショーなんて。今年は高校生どころか小中学生、大学生まで来てますよ」
「店は宣伝できて客が呼べるし、あたしたちは人が集められるし」
「最高です。あたし、別の高校の友達にチケット拝み倒されました。ここでのコーディネート、ＮＡＲＡスタイルって呼ばれて文化祭後も各店で評判だったって」

去年、予想を越えて反響を呼んだおかげで、今年は春先から参加希望の店舗が問い合わせてきたくらいだ。

「やってみるものよね。大変だけど」
「でも面白いです。だいたい今時、こんなに活気ある文化祭って珍しいですよ」
「その分、責任重大なんだ」

後ろからの声は振り向かなくともわかった。桃があわてて姿勢を正そうとするので笑ってしまう。軍隊じゃないんだから。だが、洋輔にはそうさせる厳しさがある。

「会長」
「始められるか？」

桃にうなずいてみせたあと、洋輔が林子に問いかける。このイベントの運営は林子に一任されているのだ。

「もちろん」
「よし、頼んだ」

それだけ言うと彼は消えた。生徒会長は文化祭実行委員長でもある。当日の忙しさはＭＡＸだ。はーっとため息をついた桃に苦笑する。

「なによ、直立不動なんて」
「緊張するんです。篠井先輩ってなんかこう、頼れるけど怖かったりしません？」
「あたしはつきあい長いから」
マイクを確かめながら林子が答えると、桃がひょいとのぞきこむようにしてくる。

「あのお、林子先輩って会長の彼女じゃ」
「ないないない」

絶対否定に桃の顔は何故か残念そうだ。

「そうなんですかぁ。お似合いに見えるのに」
「冗談じゃない。有能で優秀なのはみとめるけど、あまりにも冷静すぎる。彼氏としちゃごめんだわ」

おまけに、他の誰かに恋いこがれてる男なんてね。

「えーーでも」
「桃、オープニング」

唇をとがらせた後輩はしぶしぶスタンバイに向かう。見送った林子は洋輔にふと思いをはせた。

彼が密かに想い続ける彼女は今頃、別イベントに引っ張り出されているはずだ。自ら望んでの片思いに同情してもしょうがない。それよりもこっちだ。

１ベルを鳴らす。じりりりりと響きわたる音に場内が静まっていく。このわくわく感が好きだ。２ベルは３分後。ステージど真ん中、予定の場所でマイクを握った林子。照明と音声、舞台袖のスタッフにも合図を送ると、息を吸い込む。


「ご来場の皆様、大変お待たせ致しました。ただいまより県立楢高校文化祭イベント、ファッションショーＮＡＲＡスタイル、開演です」


正面で開いていく幕の向こうから万雷の拍手が押し寄せる。自ら勝ち取った快感。高鳴る鼓動を林子は誇らしく感じていた。





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