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7.つながる影  (2年10月)



意識して行動したことはないが、硬派か軟派かと問われれば間違いなく自分は硬派だ。それぐらいの自覚は康平にもある。

軟派が悪いというのではなく、ポーズとか装うとかでなく、性格がそもそも軟派にはなれない。たとえていうなら、どれだけ彼女が好きでも学校では手を繋げない、そんなあたりが。


「康平のケチー」
ファミレスのボックス席で男三人に紅一点。
美人で気の強い彼女は口も達者だ。

「減るものじゃないんだからいいじゃん」
「実紀。おまえも懲りないねぇ」
甲斐が呆れ半分感心半分の顔。

「何言ってるの甲斐。恋に懲りるとか諦めるとかはないの。アタックあるのみ」
「おまえらつきあって何年目だよ」
洋輔がこれもあきれ顔で聞く。

「よくぞ聞いてくれました。もうすぐ丸3年」
「それでまだ、手を繋ぐ云々でもめるわけ?」
実紀が思いきりふくれっつらをする。

「康平に言ってよ。学校じゃぜーったい駄目なんだもの」
「見せ物じゃねぇだろ」
康平はごく普通に断じる。少しきつい目で睨むようにして。

「見せてもいいじゃん」
「……実紀」
康平の声が低くなるのを合図に、実紀が撤退する。

「わかってる。ごめん」
「康平もかったいよなー。まあそれが康平だけどさ」

ポンポンと甲斐が実紀の頭を叩く。慰めているのだとわかっているのにちょっとむかつく。気安く触れて欲しくない。隠している嫉妬をわかっているのだろう、甲斐が康平に眼を踊らせる。

「俺なら1日中繋いでやるけど?」
なのに実紀ときたら。
「甲斐と手繋いでどうすんの」
「うわ、きつ」
苦笑する甲斐にお構いなしで実紀は康平の背中にしがみつく。

「康平が好きだから手を繋ぎたいの。誰でもいいならフォークダンスで十分よ」
「はいはい」
「お姫様は無粋な奴にぞっこんで」
洋輔がメガネの向こうから冷ややかに言い放つ。

「いいの。無粋なのも康平のいいところだもん。ね?」
至近距離でのぞき込んでくる彼女の顔。

心臓に悪い。
康平の内心なんて実紀は知るはずもない。ふれあうことに自分がどれだけ、胸の痛くなる思いをしてるかなんて

「結局のろけで終わるんだよな、こいつら」
「あほらしい。帰れ帰れ」


追い出されるようにしてふたりはファミレスを出た。外はとっぷり暮れている。並んで帰る道は街灯の丸い光がぽつりぽつり。康平と実紀は歩幅が違うからゆっくり歩くようにしているけれど。

「……康平?」
差し出された手に実紀がきょとんとした。

「今日は特別」

ぱあっと、華のように明るくなる彼女の笑みが胸をさす。重なる手の温もり。激しい動悸まで伝わりそうで。

だから手を繋ぐのは苦手なんだ。


半歩先を行く康平にひっぱられるようにして実紀が笑う。
道に伸びた影もつながって揺れていた。





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