「でね。でね。これもらったの。いいでしょー」

実紀がはしゃぎながら見せてくれるのは小さな赤く光るトップのネックレスだった。林子は眉を寄せ首を傾げてみつめる。

「ルビーよルビー」
「…イミテーションじゃない？」
「ひっどーい！　本物だもん！」

「まあね。これだけ小さけりゃ本物かも」
「り・ん・こ！　さっきから何よ。康平がくれたバースデープレゼントに文句あるわけ？」

ギロリ殺気をこめて睨まれて林子は笑ってごまかした。からかうつもりはあるが怒らせてはしょうがない。

「文句なんてありません。ごめんなさい。とぉっても素敵なネックレスです。さすが康平」
「よろしい」
二人が繰り広げるコントに横で汝月がクスクス笑っている。


高一の夏休みの終わりだった。仲のいい６人だがだからといってべったりした関係でもない。それぞれ部活やらバイトやら勉強やらで全員そろうことは滅多にない代わりに、何人かで集まることは結構あった。

今日は女の子だけの夏休み報告会とでもいうのか。声をかけたのはもちろん実紀だ。なんたって彼女には話したいことが山ほど。その大方は康平がらみののろけと来ている。林子はクスッと笑った。

実紀のストレートな彼氏自慢は中学校から変わらない。自分だって超人気者で美人でもてるくせに康平にはぞっこん。そこがらしいとも言える。全身からエネルギー発散して輝く、彼女こそルビーそのものだ。

隣に座る汝月はというと、真逆だった。全てを放出する実紀に対して彼女は全てを内包して見える。喜びも哀しみも秘めて輝く、深海の色のサファイアはまさしく９月生まれの彼女だ。

こうしてみると誕生石というのは結構当たっているのかもしれない。
自分をのぞけば。


相変わらず機関銃のようにしゃべる実紀とそれを聞いてやる汝月を見ながら、林子は自嘲した。緑色の宝石は綺麗だけれど、あの明るさが自分に似合うと思えない。そう言う意味ならどんな宝石も似合わない気がする。

ゴージャスとかセクシーとか、人が林子を形容する言葉は外見のみだ。メリハリのあるプロポーションとうねって量のある髪、厚ぼったい唇に肉感的な脚。男子からは欲望の、女子からは羨みか妬みの視線を向けられる。

林子が心の奥底で自己否定を繰り返しているなんて、誰も思っていないだろう。仲間達ですら。


どうせなら実紀のように。でなければ汝月のように。
きれいなものが似合う自分でありたかった。

叶わぬことを願ってもしょうがない。自分は自分。他の人にはなれないならば、もっているものを駆使して生きるしかない。


「バースデーから一ヶ月も遅れたって康平は申し訳なさそうだったんだけど。忘れてたわけじゃないし。夏中ずっとバイトしたお金で買ってもらえるなんて、凄く嬉しくない？」
「うんわかる」
切々と訴える実紀に頷く汝月。どちらも可愛くて綺麗だと繰り返し思う。

「だから、イミテーションだったとしてもあたしには本物なの」


実紀の言葉に胸を突かれた。
イミテーションでも本物だと。
いつか自分も会えるのだろうか。そう思ってくれる誰かに。


振り切るように林子は会話に加わる。

「まーったく実紀の話はキリがなくて。今度は汝月よ。８月の始め以来よね。どうしてた？」
「うん、秋の公募展の準備で」

「ちょっと林子ぉ、もう少し聞いてよねぇ」
「うるさい」
「りんこったらぁ」


綺麗なものたちに囲まれて、にぎやかな会話はその後も尽きることなく続けられた。





　　　　　　　　　　　　　　　＜　hope　　/　end　＞