光姫の会社は自社ビルだ。

広い玄関フロアはどこも似たようなものだが、春から少し様相が変わった。正面ガラス張りの自動ドアを入ると左に受付。その向かい、右側の一角に休憩スペースが作られたのだ。

平日の１Ｆは解放されていて、誰でも自由に立ち寄ることが出来る。ゆったり置かれた長椅子。点々と置かれたプランターに囲まれて、中央にさらに大きく。

そこには花が在った。

人目を惹きつけるのに派手とか華やかとかでなく。心和ませる空間の中心。おそらく誰もがそれを感じるのだろう。たくさんの人を引き寄せている。



営業という仕事はあたりまえだが出入りが頻繁だ。このスペースを目にする機会も、内勤の社員よりは確実に多い。
クライアント先や接待先などいろいろな花を眼にする光姫だったが、この場所には驚かされた。自然に咲く花ならともかく、意図的におかれた花にこんなにも癒やされるなんて。

たとえば歩き疲れた日も、仕事がうまくいかなかった日も、心がささくれ立った日も。花を見て綺麗だと思うだけで満たされる、そんな器が心にはあると。ここの花はそれを必ず満たしてくれると知った。

決して容易くはないのに最大限に花を生かし、その上で創り上げる空間の魔法。


自分とはまるで異なる種類の、しかし質の高い『仕事』を目の当たりにして。
癒やされると同時に光姫は奮い立たされる。いつもいつも。

やる気があれば、人はこんなこともできるんだと。
あたしも、頑張ろう。花にもこの場所にも負けないように、と。



自動ドアをとびだしていく光姫。
彼女の心の器を今日も満たしてくれるのは、陽の光を仰ぎながら彼女を見送る花と。

それからー？



　　　　　　　　　　　　　　＜　energy　of　flower　/　end　＞