29. 彼岸花 侍×娘 （危ない侍と娘） 29. 彼岸花 侍×娘 （危ない侍と娘）
河原を一面に覆い尽くす、彼岸花の群れ。 「綺麗」 娘の言葉に侍が振り返る。 隣でみつめている眼は穏やかに、その光景を愛でている。 「綺麗か」 「綺麗でしょ」 「禍々（まがまが）しいと言わないか？ 彼岸花は」 侍の声音に娘が見上げる。 「そうね。死人（しびと）花とか言う人もいたわ」 「あの色が、そんな風に見えるんだろうな」 あの。 あか、が。 「見る心持ちで変わるんじゃない？」 視線を戻しながら、娘はあっさりと言う。 「昔ね、あの茎を折って妹たちと遊んだの。 綺麗な首飾りになったわ」 思い出す秋の日。 はしゃぐ妹と小さな手。茎の汁。 冠のような花。 「帰りは必ず、家に持って帰って」 貧しい暮らしを彩った鮮やかさ。 「彼岸花が咲く季節は寂しくなる頃だから。 きっと見る人も寂しい人が多いのね」 夏の終わり。 秋へ。 冬へ。 その中であの鮮やかさは、痛いのかも知れない。 「でも。綺麗。あの色」 もういちど見下ろす娘は、やっぱり穏やか。 風に揺れる彼岸花が波打つ様をただ、愛でる。 不意に伸ばしてきた指が侍の指を探り、握る。 「ね？」 「・・・あぁ、そうだな」 今。 花が花として目に映ることを。 おまえといることを誰に。 何に、感謝すべきだろう。 その惑いを嗤うように、彼岸花が揺れた。 ＜ 29 / end ＞ |
★あとがき★
微妙に 5.あか とかぶりましたが、侍と娘です。
同じ花を見ても、思うことは異なる。だからこそ寄り添って。
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