28. 硝子玉 建（たける）×華代 （おとこ運勝手につづき） 28. 硝子玉 建（たける）×華代 （おとこ運勝手につづき）
玄関の戸があいた。 奥の部屋で華代が首を伸ばす前に、声が聞こえた。 「こんにちわー。華代さん、いますー？」 あたるだ。 華代の顔に浮かぶ嬉しそうな笑み。 「こっちー。上がってーっ」 勝手知ったるなんとやら。１分後にはあたるがそばにいた。 手にはケーキの箱。 「昨日、良之が買ってきたんです。お二人にも持っていけって」 「あら嬉しい。ここの美味しいのよねぇ」 あたるがクスッと笑う。 「何？」 「良之と華代さんって、味の好みがそっくり」 「そう？」 「どっちもグルメ」 「あらあら。褒めてくれるの？」 「華代さんは。良之のはうるさくって」 そう言いながら、あたるがキョロキョロする。 「建さんは？」 「ちょっと出かけてるのよ。帰るのは夕方。だから虫干しなの」 華代の言う通り、 部屋の中は箪笥から出されたいろんなものでいっぱい。 虫干しといっても衣服でなく、本とかスカーフ。 ハンカチ、手袋、小物類。なんだかとりとめない。 「思い出の品ってとこかしら」 「建さんとの？」 「どうしてもそれが一番多いけど」 ふふふと笑う華代は綺麗だ。 年を重ねた美しさってあるんだなぁとため息がでそう。 何気なく落とした視線が、小さな小箱をとらえた。 立方体の頑丈そうな紙箱。 「これ、何ですか？」 「・・・あぁ、これ？」 華代がいかにも懐かしそうにそれを手にすると、ふたを開けた。 現れたのは綿にくるまれた。 「わぁ、指輪」 そう、指輪。 昔風のたてづめにキラキラ光る輝き。 もしかして。 「ダイヤ？」 あたるの問いに、でも。 華代は悪戯っぽく眼を踊らせて、意外な返事。 「いいえ、違うわ。これね。・・・・硝子玉なの」 「硝子玉」 え？ もう一度見ても、そのキラキラは変わらず。 とても硝子には見えない。 第一、みつめる華代の眼があまりにも嬉しそう。 「昔ね。婚約してすぐ。建さんのお家はいろいろあって破産したの」 「破産？」 ドラマみたいだ、なんて。 「婚約もだから、解消したいって言われたんだけど。 私がどうしてもうんと言わなくて。父母も昔気質の人だったから。 家が傾いたからって婚約解消させる気はなくて。 親子して変わり者って周囲には言われたんだけど」 笑いながらの話はなんともシビア。 「破産した建さんにお金なんてないでしょ。結納もできなかったけど。 私もそんなのどっちでもよかったの。建さんと一緒になれれば」 きっと昔もこんな風に、 柔らかい話し方だったろうなとあたるは思う。 「そんなある日ね、夏祭りがあって。二人で行ったの。 建さんずっとお家のことで大変だったけど、私につきあってくれて。 そしたら夜店でこれ、みつけてね」 思い出す華代。 『綺麗』 『硝子玉ですよ』 『でも綺麗じゃないですか？』 『そうですね。・・・欲しいですか？』 『建さんが下さるの？』 『あなたが受け取ってくれるなら』 『欲しいです』 夜店の提灯。 駆け抜ける子どもの群れ。 香ばしい匂いの屋台。 キラキラの硝子玉を、私に差し出す貴方。 「・・・そのあと、すぐ籍を入れたから。 これが結納品みたいなものなのよね」 「そうなんだ・・・ほんとに」 「え？」 「綺麗ですね」 あたるが嬉しそうに、夢見るようにそう言ったから、 華代もまたふふっと笑って、宝物をはめてみた。 昔よりずっと皺の増えた、でもきれいな指で、 硝子玉がきらりと光った。 ＜ 28 / end ＞ |
★あとがき★
華代さんってなんか、描きやすくて好きです。
反対に思い出話でならともかく、今の建さんはちっともしゃべってくれないです(^^;)
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