27. 帰還 光姫×一星 27. 帰還 光姫×一星
夢を見た。 あなたの元へ帰る日。 星は川になって、川に星が浮かんで。 どこまでもどこまでも。 あなたと私を隔てている。 何故なのか。理由はわからなくて、でも。 今日だけがあなたに逢える日。 年にたった一度。 あなたのところへ帰ることの出来る日。 私は待っている。川のほとりで。 あなたは待っている。川の向こうで。 お願い、今日だけは。 雨、降らないでと祈りながら。 なのに。 こんなに綺麗な夜空なのに。 雨音がーー。 瞬きしていた。ベッドの上、天井をにらんで。 いつのまに眠ったんだろう。 頬が冷たくて、指先で触れる。 雨に降られたみたいに濡れている。 また流れ落ちる。瞬きするたびに。 開けたままのカーテンの向こう、窓を透かして空に月。 夢に聞いた雨音はやっぱり夢？ ごく稀に、理由もないのに。寂しくてたまらなくなることがある。 途方に暮れるほどの孤独。 突然、闇の中に光が明滅する。 いびつな振動音。 茫然と見ていたそれをのろのろと手にする。 液晶画面に映る名前。 「・・・一星？」 『姫？ よかった、いた』 「なによ」 『まだ怒ってる？』 「怒ってないでしょ」 『嘘つきだからな、姫は』 「どういう意味？」 『怒ってない。寂しくもない？』 黙り込むんじゃ分かりやすすぎる。 わかってても今は言葉にならない。 『ドタキャンしたのは俺なんだから。怒ればいいのにさ』 「怒ってない」 『１ヶ月逢ってないんだぜ』 「・・・だから？」 『あんまりそっけないと本気にするよ』 「何をよ」 『あたしは１年逢えなくても平気だけど、っての』 すっと息を呑む。自分のセリフに怯える。 なのに引き結ばれてる唇。 『結構きつかったんだけど』 「・・・ドタキャンしたくせに」 『あの時間はどうしても無理だったんだって』 「わかってるわよ、仕事でしょ。仕方ないんでしょ」 あたしは営業の姫よ？ わからないわけないじゃない。 怒るわけ、怒れるはずないじゃない。 『・・・なぁ』 「なに」 『ベランダ、出て見ろよ』 「どうして」 『月が綺麗なんだ』 「窓から見えてる」 『天の川も見えるって』 ふらふらと立ちあがると、サッシの鍵を開けて出た。 確かに明るい月だけど。 そうよ。東京で天の川なんて。 「・・・みえるわけないじゃない」 『見えたって』 「嘘。どこに」 『下に』 わけのわからない言葉にむかつきながら見下ろす。 路上に車。その横に人影。 携帯を持って見上げている誰か。 『見えたろ、天の川の向こう』 笑うことも泣くことも悔しくて、できやしない。 ただ睨んでるあたしに、相変わらずの笑み。 ここからダイブしたら、ちょっとは焦るかしら。 あの脳天気な顔も。 『俺は牽牛にはなれないの。１年も待てるか』 「・・・・バカ・・・」 『姫が？』 「あんたに決まってるでしょっ」 ボロボロとまた溢れる涙をどうしてくれるの。 ベランダから玄関へ走りながら放り出した携帯。 きっとベッドのクッションが柔らかく受け止めただろう。 直後、彼に受け止められたあたしのように。 「一星のばかやろ」 「姫、口悪すぎ」 その後、言葉はいらなくなって。 おそらく星の恋人達も互いの元へ戻っただろう綺麗な夜空。 彼らほど忍耐のない、地上の恋人たちもまた還る。 つがいなる、相手の胸へ。 今宵は七夕ー。 ＜ 27 / end ＞ |
★あとがき★
実はこの二人は七夕がルーツなんですよ。
（名前をばらすと、織田光姫と彦根一星・・・わかります？・爆）
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お気に召しましたら、ポチッとおしてやってくださいませｖ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・