23. 学ラン カヲル×洋子 （おとこ運勝手につづき） 23. 学ラン カヲル×洋子 （おとこ運勝手につづき）
「中学は学ラン」 「そうなの？」 ひろみを遊ばせながらの休日、夜。 どこから話が転がったのか、学生時代の制服の話になった。 洋子は中学校も高校もブレザーだったという。 「似合いそう」 カヲルが想像だけで眩しげに笑う。 「似合う子もいるけど。 あたしはどっちかというと、ガリガリだったから。あんまりね」 意外なことにコンプレックスだったらしく、洋子が苦笑いになる。 「そうかな」 「自分でそう思ってたから」 「難しいよね」 カヲルはひろみを抱き上げる。 しっかり首も腰も据わって。 ハイハイ真っ直中の元気な娘が可愛くて仕方ない。 「制服ってさ、いいところと悪いところがあるよな」 「そうね。少なくとも日本の中学や高校は、 規律と束縛の意味が大きいから」 「本来、あの年頃こそ、 似合う服を着て自分をアピールしたいだろうにさ」 デザイナーとなった今でこそ、思うことは多い。 「でも。あなたは学ラン、似合ってたでしょ？」 洋子の言葉に、しかしカヲルはチッチッと指を振った。 肩に丸くなるひろみを片手で支えてのそれは、 妙に絵になってドキドキする。 困る。 「俺のさ、この髪。地毛なんだって知ってる？」 「・・・嘘」 「ほんと。中学とかはうるさくてさぁ。 真っ黒な学ランに色素の薄いこの髪だろ。 とにかく目立つんだよな。良くも悪くも」 思い出にため息をつくが、すぐに笑顔になる。 「まあ。言われておとなしくなんかしなかったし。 親父もおふくろも理不尽なことには断固、抵抗しろだし、 自分たちも学校に文句言うほうだったから」 悪戯っぽい笑いはちょっと迫力。・・・何やったんだか。 「だからさ。学ランは微妙なわけ。 集団に混ざる楽さと、混ざれない悲哀と、突出する快感。 全部まとめて象徴してるんだ、昔を」 みつめるのは東。 遙か彼方の極東のふるさと。 カヲルの経験も決して特別なことではない。 人はそれぞれそうした日々を、 玉石混合で過去に詰め合わせて居るんだろうと思う。 いい思い出、悪い思い出。 自分だってそうなんだ。 「それに懲りてさ。高校はブレザーのとこにした。 女の子ならともかく、 男で制服前提の高校選びって情けなかったかも？」 カヲルの笑った振動に目も覚まさず、 ひろみは気持ちよさそうにクークー寝息を立ててる。 胸が痛くなる幸せな図。  「第二ボタンは？」 「ん？」 「卒業する時。欲しいって言われなかった？」 「あー・・・どうだったろ。 そのころはなんとなく、あたるが気になってたから」 いきなり出てきた名前に時が舞い戻る。 「そっか。幼なじみの同級生・・・だもんね」 「そ。小中高、全部一緒」 「全部？」 「たまたまね。 あいつはそれこそ、ブレザーが可愛くて気に入ったクチ？」 単純だったよな、今も昔も。 そう言って笑うカヲルの思い出に、チクッと刺される。 やだ。 これはヤキモチ？ 自分の知らない彼を知っていることに。 ずっと彼のそばにいたことに。 まっすぐで強くて可愛い彼女。きっと昔もー。 「洋子さん？」 ハッと気づけばカヲルが見下ろしてくる。 ひろみはいつのまにか、ベッドに下ろされて。 「どうかした？」 率直な彼に突っ張ろうとしても、突っ張り切れたことは少ない。 今だって。 「ごめん。ちょっと妬いた」 「へ？」 「あたるさんに。いいなぁって。 あなたの学ラン姿、知ってるんだもん」 思ったより声が拗ねていて、自分で焦った。 眼を丸くした彼がなんとも嬉しげな顔になるのが・・・悔しい。 「わー、なんか俺。幸せ」 「・・・馬鹿」 「そうだね。馬鹿？」 ギュッと抱きしめられて重ねる唇。それで全てが許しあえる。 あたしこそ。 幸せ。 「・・・今度、見せてあげるから」 「・・・・・ん・・？・・・」 「昔の、アルバム」 「・・・うん。見せてね」 伸びた手がスイッチに触れて。 灯りが消えたー。 ＜ 23 / end ＞ |
★あとがき★
ここも変わらず（笑）。結婚も同居もしてないですが、安定している二人です。
カヲルの学ランは見たかった（爆）
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