22. ホームシック 天羽×あたる （おとこ運勝手につづき） 22. ホームシック 天羽×あたる （おとこ運勝手につづき）
「ホームシックになったこと、ある？」 テレビに見入っていたあたるが、振り向きざまに聞く。 突然すぎて止まる、俺の思考。 「ホームシック？」 そんな上品なもの、なったことなんて。 「ないな」 「えー、そうなの？」 「なんだよ急に」 いかにも不満そうに言うので、ちょっとムッとする。 「家、離れたのっていつ？」 「前に言わなかったか。 大学出てそのまま会社の寮に入ったんだ。バスケ部の」 「・・・そっか。寮って寂しくないよね」 「朝から晩までバスケ詰めだったしな」 そこまで言って、またあたるを見る。 「でもなんで？」 「ううん。今テレビで海外協力隊してる人の話題があって。 ホームシックで泣いてたから」 「から？」 「・・・自分のこと思い出したし」 「ふぅん」 ソファに寝転がっていた俺はちょっと体を起こすと、煙草に手を伸ばす。 「ホームシックになったんだ？」 「そりゃね。うち、賑やかだったし」 思い浮かべるあたるの実家。 家族は多いわけじゃないんだが、あの親父さんで一騎当千。 おまけにご近所もいっぱいだし。 浮かんだ光景に笑いを堪えて、くわえた煙草に火をつける。 「最初はいいの。ひとり暮らしに憧れてたし。 でも１，２ヶ月して興奮が納まった頃が結構きたなぁ。寂しかった」 なるほど。そういうものかもしれない。興奮が納まった頃、か。 そういえば。 似たような経験ならあった。俺にも。 「親父が死んだ後、バスケやめて。旅に出てさ」 煙草の煙をふーっと吐きだすのと一緒に、口からこぼれた言葉。 あたるが驚いて俺を見る。 「初めはぐしゃぐしゃで、なんも考えたくなくて。 とにかくその日暮らしだったんだけどさ」 そう、その日暮らしでも。 「ふと気づいたらさ、思い出してたんだ。親父のことばっかり」 幼い俺の一挙一動を追いかける親父。 俺の前で偉そうに、いろんな話をする親父。 それからー次々湧き上がってくる思い出に当惑して。 ひとり、泣いた。 「後悔して後悔して。それでも戻れないってわかってて。 でも。戻りたかった」 あの日。あの場所。 親父が笑ってた時間。 「・・・あれも、ホームシックっていうのかもな」 ホームという言葉は多分、いろんな意味を含んでいるから。 家。 ふるさと。 人。 ・・・親。 自分の想いにふけっていたから、 あたるが隣に座ったことにも気づかなかった。 ギュッと抱きしめてくる腕に、ハッとする。 触れたそこから、あたるの気遣いが伝わってくる。 「襲ってんのか？」 「バカ。 ・・・・大丈夫？」 抱きついたままのくぐもった声。恐る恐る上げる眼。 俺が親父の話をする時はまだ、こんな顔をする。 あたるのせいじゃないのに。 「変な話始めて・・・ごめんね」 親父の話ができることこそが、あたるのおかげだってのに。 バカは、おまえだ。 そう言おうかと思ったけど。 「じゃ、お詫びに」 遠慮するのも勿体ないので、 俺はみあげたままのその顔にキスを振らせる。 「・・やっ・・・よしゆっ・・・やっぱりバカっ・・・んっ・・」 抗議は即却下。あとは押し倒して口を封じて。 やがて背に回される華奢な腕に、包み込まれながら俺は思う。 きっと、どこにいても。 今の俺が恋しく思うのは、家でもなく親でもなく。 たったひとり。おまえだけだな。 なんて、悔しいから絶対言わないけれどー。 ＜ 22 / end ＞ |
★あとがき★
天羽さんはやっぱりずるい奴かも（笑）
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