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　　20.　カーラジオ　　羽矢×美琴　（ふたりの軌跡）



今時の車にはＣＤやＭＤも装備されているが、
羽矢の車で聞こえてくるのはカーラジオが多い。
洋楽・邦楽・クラシック・etc.
ジャンルはあまりこだわらないようだが。



「ラジオ好きなの？」
ある日美琴が聞いた。


「ん？」
「ＣＤとかじゃなくて」
「そういうわけじゃないな」
「そう？」
「車だとさ、聞きたくなるんだ。ラジオ」
「ふーん」


わかるようなわからないような説明に、
同じくらいわかるようでわからなそうな返事。
羽矢が苦笑する。





「たぶんさ」
「うん」
「走ってるせいかもな」
「うん？」
「走ってる車では、走ってる時間を感じるんだ」



走ってる時間。



「・・・時間って停まってるわけじゃないんだよね」
「そりゃそう。いわば常に走ってるわけだけど。
　いつもはあんまり感じないだろ」
「そうだね」
「バスケやってると時々、時間が停まって見える」



横を見ると、ハンドルに乗せた手は、骨張って大きい。
その手は大きなボールも包み込む。
「ホイッスルがすげぇ長く響いたりとか」
「うん」
なんとなくわかる。



「車に乗ると逆で。時間の流れを感じる。
　後ろへ飛んでく景色みたいに」
「ふぅん」
「だからかな。ＣＤとかより、
　オンタイムで流れる音楽の方が似合う気がする」
クスッと美琴が笑う。


「なんだよ」
「琉斗さんってロマンチスト」
「はぁ？」
「だなぁって思って」
チラッと横目で走らせた視線に映る彼女の笑み。
バックミラーを見上げたら、自分の顔が赤いような。


「・・・そんなに面白いことか？」
「だって」
「いい加減にしないと、天誅くだるぞ」
「どんな？」
まだ笑ってる美琴。



羽矢は運転中。いたずらもできない。
そう思って油断していたら、キッとブレーキ。
あれ、信号？・・・やば。
パッと横を見ると、悪魔の笑いの彼。
「りゅ・・・」



狭い車内でグイと引き寄せられたら降参。
あとは為されるがまま。
後ろからクラクションで煽られるまで、キスは続く。




唇に溺れながらどちらも思う。
この瞬間きっと、時は停まってる。




カーラジオだけが、時間の流れを告げ続ける。





　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜　20　/　end　＞

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