19. 螺旋階段 右生＋遼子 （水曜日の恋人） 19. 螺旋階段 右生＋遼子 （水曜日の恋人）
豪奢な螺旋階段をのぼる。 遼子の後に続いて。 「無駄な装飾だな」 「そう？」 「そうだろ」 「そんなこと言うのはあなたくらいよ」 ウエーブの流れる髪を背に、 シックなロングドレスを着こなす遼子。 無駄な装飾が、彼女の背景としてなら生かされる。 たいしたものだ。 「ねえ」 「何だよ」 「どうしていつも後ろからなの？ 普通エスコートは横か前でしょう」 そういいながらも、 とどまることなくのぼっていく彼女。 「必要ないだろ。あんたはひとりでのぼれる」 言う間に上り詰めているくせに。 右生が苦笑したとたん、彼女が振り返る。 「あなたもでしょ」 「俺？」 「ひとりでのぼる」 「……そうだな」 たぶん、似ている俺たち。 でも違うのは。 「でも、同じ場所よね」 ゆっくりと彼女の高さまで近づいていく。 細めた眼で見返す彼女は、すぐそば。 「どういう意味だ？」 「ぐるぐると高くなったり低くなったりしても。 右生は同じ場所から動いてないのよ」 明らかにしかめる眉。 不機嫌へ変わる表情。 「過去から、いい加減踏み外せば？」 残り４，５歩だった階段を２歩で登り切った右生が、 遼子の横に並んでにらみつける。 彼女がひるむわけもないが。 「いつになったら、飛び出すのかしら」 「大きなお世話だ」 そっぽをむいた背中は、 やっぱり昔のままだと遼子は思う。 だから今も自分といるのだろうけれど。 ならば。 動き出したら、そのときが終局。 「…やぁね。またぐるぐるするのはごめんだわ」 ぱさり。 髪を指で梳きあげてから歩き出す。 あちこちからの声に応えて艶やかに笑み。 私は手をさしのべない。 あなたもきっといつかは抜け出す。 そこは遠い昔でしかないから。 螺旋階段は心の迷路。 ＜ 19 / end ＞ |
★あとがき★
遼子には遼子の物語があるのですが、描くことは…ないかも。
謎は女性を魅力的にしますね。
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