３０のお題　17.　引力

　　17.　引力　　建（たける）×華代　（おとこ運勝手につづき）

「・・・つまり、引力というのは引き合う力のことです」

建の説明に、向かいの華代はわかったような、
でもわからぬような顔で首を傾げる。
もっとも、説明した建も、
わかってもわからなくてもいいような顔。

公園のベンチ。
空は高く青い。

お見合いして、おつきあいすることになったものの。
どちらもどこか変わっているためか、デートもまるでびっくり箱。
思わぬところへ行ったり、思わぬ話になったり。

「引き合っているの？　月と地球は」
「ええ。地球は太陽とも引き合っている」
「あら。なんだか浮気者みたい」
「・・・なるほど。太陽にはたくさん引き合う相手がいるんですよ」
「まぁ。もてるのね。太陽って・・・男性なの？」

星に性別があるんだろうか
とも言わず。

「さて。月は女性として扱われることが多いですが・・・、
　いやそうでもないか」
「そうでもないの？」
「月読（つくよみ）は男神だったかな」
「なら、太陽は女性？」
「ギリシャ神話の太陽神、アポロンは男性ですね」
「・・・・どっちもありなのね」
「神話ですし」

二人の会話に付いていける人はあまりいない。
どちらも至って真面目。

「でも。二つが引き合うんでしょう？」
「ええ」
「それが引力なんでしょう？」
「そのはずですよ」

とぼけた声で空を見上げる彼に、
華代の話はまた、びっくり箱。

「あのね。いつも家まで送って下さるでしょう？」
「ええ、送ります」
「いつも玄関先とか、枝折り戸前で帰られるでしょう？」
「夜分にお邪魔するのも申し訳ないですし」
「帰って行かれるあなたに付いていきたくなるの。
　それって引力なのかしら？」

場合によっては殺し文句。
場合に寄らなくても、ちょっとたまらない。
建の眼が白黒している。
珍しく。

「あ、でも。引き合う力でしたわね。
　私だけ引っ張られるんじゃ引力とは言わないかしら」
「・・・・引力なんでしょう」
「どうして？」
「僕もいつも、戻りたくなるのを堪えながら帰ってますから」
「あら、ほんとに？」

無邪気に手を叩く彼女の笑顔に。
やられてしまう。

「なら間違いなく、あなたと私の間には引力があるんだわ。
　これって発見？」
「そうですね」
「学会とか発表できます？」
「それはちょっと」
「そう？」

首を傾げる彼女に、キスをすべきなのか。
抱きしめた方がいいのか。
真面目な顔して実は建が悩んでるなどと、
華代にはわかるはずもなく。

宇宙に引力。

地上に恋。

引き合う力は不思議な、謎。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜　17　/　end　＞

★あとがき★
限りなく天然だった華代さん。
建（たける）さんもかと思いきや、そうではなかったらしいです。苦労が忍ばれます（爆）

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