14. セピア 建（たける）×華代 （おとこ運勝手につづき） 14. セピア 建（たける）×華代 （おとこ運勝手につづき）
「初めまして」 「初めまして」 お見合いでしゃべるのは仲人ばかり。 釣書に書かれてあることを、ここぞとばかりに繰り返しながら、 伺うのは当人達よりもその親の顔色ばかり。 それを承知でここに座っているのだけれど。 足はしびれなくても、気持ちは痺れてくる。 退屈と苛立ちで。 「少しお二人でお話しされてはいかがです？」 これもやっぱりお決まりなんだろう。 親から離れたほうが有り難いけれど、初対面のこの人とふたりきりというのも。 などと考えるうちに、さっさと彼らはいなくなる。 ふたりきり。 黙ったきり。 どうしよう。 はっきりお断りしなくちゃ。 私はまだ、結婚なんて考えられないし。 仕事だってしてみたい。私には無理だってみんな言うけれど。 やってみなくちゃわからないじゃない？ 「あの」 「外へ」 「え？」 「天気がいいですし。庭へいかがですか」 「はぁ」 どうして庭にいるのかしら。 綺麗な庭園。緑と池と花と。 それはいいんだけれど。 「ジャングルで」 「・・・はい？」 「迷子になったとします」 華代の脳裏に、物語でしかしらない密林が浮かぶ。 うっそうとした枝から枝へ、ターザンが・・・あら、サルかしら。 「獣に追われます」 「ええ？」 想像の中で、華代の後ろから追いかけてくるのは。 ライオンのような、虎のような。 「逃げまどううちに、滝の上に出ます」 パッと開ける視界。眼下に瀑布。 唸りを上げて落ちていく水の洪水。 「うしろから獣が迫ります」 えっと。 前門の滝。後門の虎かライオンかそれとも。 「どうします？」 「飛び込みます」 間髪を入れずに答えた華代に、目を大きく見開いた相手。 「何故？」 「私、護身術とか武道はからきし駄目なんです。 獣を相手にしても勝ち目はありません。 滝に飛び込んでも助かる可能性は低いですけど、 助かるかも知れませんし。可能性がある方を選びますわ」 ゆっくりと。 初めて見る、相手の柔らかな笑顔。 あら素敵。 「・・・あ、でも私、泳げないんですけど」 小首を傾げたら、今度は声高らかに爆笑されてしまった。 あら、ほんとに素敵？ 思わず自分も笑いだしていた。 二人であまり笑い転げるから、何事かとあわてたのだろう。 仲人と双方の両親が飛んできたっけー。 「・・・へぇ〜。建さんと華代さんってお見合いだったんだ」 古い写真を見ながら、あたるが面白そうに聞き入っている。 「昔はね。それが普通だったから」 「建さんもいきなりそんな話するって、変わってません？」 「そうね。それまでお見合いで何度か聞いたけど、 あたしの答えが一番突飛で、一番気に入ったんだって」 「ふーん。なんだか」 「なんだか？」 「建さんと華代さんらしい」 クスクス笑うあたるの手には、セピア色した若かりし頃の二人。 ちょっと緊張して背筋伸ばして。 『助けを求めるでなく諦めるでなく。 ためらわないで、可能性に飛び込んでいく君となら。 素敵な人生がおくれると思ったんだ』 そう言ってくれた人は、もうじき帰ってくる。 ほら。 「ただいまー。晩飯、買ってきたぞー」 「帰った」 無愛想だけど、愛しい声。 賑やかな４人の夕ご飯はこれから。 向かいの人は嫌がりそうだけど、 セピアな話をもう少し、二人にしてあげましょうか。 ＜ 14 / end ＞ |
★あとがき★
気に入ってるんです。この夫婦。すきだな〜。
実は思い切り天然なお嬢さんだったんですよ、華代さん（笑）
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