11. 三毛猫 さくら×伊倉 （おとこ運勝手につづき） 11. 三毛猫 さくら×伊倉 （おとこ運勝手につづき）
初めて逢った時。 猫みたいだと思った。 海辺の町は潮の香り。 ああ、いいなぁ。 背広のままで荷物を足元に、俺はう〜〜んと伸びをした。 うん、いい。開放される気分だ。 女房に不満があるわけじゃないのに。 どうもこのところ、折り合いが悪い。 長期出張は渡りに船だった。 こういうところは好きだ。 第一、釣りができる。たくさん釣れそうだな。 気兼ねする奴もいないし。 俺はちょっとワクワクしていた。 そこに。 「さくらーっ、こらっ、返事くらいしろよっ！」 「うるさいっ、父さんのバカッ」 「おまえな、親に向かって」 「あほんだら！」 「・・・さくらっっっ！」 ビンビンの怒鳴り声はいっそ潔いくらいだ。 ためらうことなく近所中、海まで響かせてる。 頑固親父ってとこかな。 俺は何気なく振り向いた。 少し離れた通りの真ん中。 「干物 ゆずきや」 潮風にかすれた看板の下、前掛け姿でちょっと髪が薄い男。 いかにも親父って風情だ。 それを背に、どんどんとこっちへ向かってくるのは。 へぇ？ すらっとした背は俺より高いかも。 大きな目はパチッとして。まっすぐな眉は意志が強そう。 通った鼻筋と遠慮のなさそうな口元。 要は、やたら気の強そうな。 ・・・猫？ ずんずんと、コンクリにも足音が響きそうな勢い。 突進してきた彼女は、じろっと俺を見るとすぐシカト。 そのまま通り過ぎていく。 やっぱり俺より背は高い。 スタイル抜群。 背に流れた髪は細くてもしなやか。 なにより、目に惹きつけられた。 都会の同じ年頃の娘には見られない純粋さと。 もてあましてるエネルギーがその目で煌めいて。 出口を求めながらビーム状に、体中跳ね返ってる。 そんな気がした。 ちょっと・・・やばい。 手なんか出したら焼き殺されそう。 そう思ったのに。 宿に落ち着いてから、もう一度散歩に出た。 仕事は明日から。あわててもしょうがない。 そういうところは切り替えばっちり。 ぶらぶら歩く浜辺に夕陽が沈む。 寄せては返す波。 その波と子どもみたいに遊んでる姿。 彼女だ。 しかめっ面はどこへやら。 ジーンズはなぜか、Ｔシャツとスカートになってて。 じゃれてくる犬と戯れるみたいにはしゃいでるのが意外。 さっきと対照的なかわいらしさ。 やがて俺の視線に気付いたらしい。 その場に立ち止まると、再び見据えてくる。 これは手強い。 猫は猫でも美人の三毛猫。 プライドとガード？ ムクムクと湧いてくる興味を押さえきれなかった。 この娘が。 欲しいかも。 それがどんな運命をもたらすのか。 神ならぬ身は知る由もなく。 俺は彼女に歩み寄ると、声をかけた。 「やぁ。君、この辺の人？」 上げた眉。まつげの長い目。 やっぱり三毛猫みたいだ。 背筋をかけぬけた期待と不安。 俺とさくらの始まり。 ＜ 11 / end ＞ |
★あとがき★
伊倉って……伊倉って……しょうもない（爆）
さくら、ファイト！（笑）
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