10. 犬のさんぽ 天羽×あたる （おとこ運勝手につづき） 10. 犬のさんぽ 天羽×あたる （おとこ運勝手につづき）
ふたりの家のすぐそばに大きな公園がある。 休日はいろんな人が集まってくる。 緑が多くて広々しているから、誰もが知らず足を向けるのだろう。 あたると天羽も例外じゃない。 もっとも天羽はあたるに引きずられ気味だが。 「・・・眠い・・・」 「そればっかり」 「あのね。休みの日に眠いっつって何が悪い」 「ボキャブラリーがなさすぎ。もっとバリエーションが欲しいよ」 「バリエーション？」 一体なんの話だと、天羽が眉をしかめる。 「そうねぇ。まぶたの上下が磁石になってるとか。 接着剤で離れないとか」 「・・・脳みそが溶けて綿になってるとか？」 「そうそう。それを詰めた布団に潜りたいとか」 「おまえ、バカ？」 真顔で聞くからあたるがふくれる。 「悪かったわね。ふんっ」 先立つと後ろからクスクス笑い声。 小競り合いしながらやってきた広場は一面の緑。 寝そべる人。走る人。遊ぶ人。 思い思いの休日の風景。 あたると天羽もシートを広げて、飲み物とお弁当を置いた。 当然の事ながら、天羽は次の瞬間寝転がっている。 「良之ぃ〜っ」 「俺は今、ぬいぐるみ」 「は？」 「中味はパンヤと綿だから。転がるしかできねえの」 「・・・アホ・・」 あたるの呟きなど聞いていない。 天羽はすでに寝息を立てている。 「もう・・・しょうがないか。ここんとこ忙しそうだったし」 わかってはいたんだけど。 せっかくの良いお天気。 近場で良いから一緒に出かけたかったのはあたるの我が儘で。 なんだかんだ文句言いながらここにいてくれるんだから。 「ありがと」 日射しよけにと、自分がかぶってきた帽子を彼にかぶせる。 あまりにも気持ちよさそうだからつい。 唇に軽くキス。 「・・・何やってんの、あたし」 あわてて起きあがる。 赤い顔を仰ぎながら、あたるは一人散策へ。 かぶせられた帽子の下で誰かが笑っていたのは知るわけもない。 いつのまにか眠っていたらしい。 ワンワンという鳴き声が、天羽の頭をぼんやり覚醒させた。 まだ重いまぶたをあけると、目の前に何かある。 あぁ、帽子か。 それを取りのけ、眩しすぎる日射しを腕でさえぎる。 その間にもさっきの鳴き声と、それから耳慣れた声。 「ほらっ、こっち。おいでっ」 どちらも近づいてくるような。ゆっくり体を起こしかけたら。 「わっ、良之。起きちゃ駄目っ！」 は？ と首だけまわした眼前に、突然どアップで迫り来るものがあった。 「わあっ！」 反射的に起こしかけた体をまた倒すのと、 迫ってきたものが彼の体を飛び越すのは同時だった。 「リンクスーっ」 「良之、大丈夫？」 一体何が起きたんだか。 再び仰ぐ空は、薄青がさらに薄れて、翳んでいる。 それを遮ってのぞきこんでくる。 「あたる・・・」 「ごめん。寝てるかと思って、リンクスけしかけちゃった」 「リンクス？」 「あぁ、さっきの柴犬。可愛いんだよ。」 確かに可愛いが。 「すみません。怪我ありませんか？」 あたるの後ろからもう一人、若い女性が見えた。 天羽も体を起こす。 犬を抱いているところをみると、飼い主らしい。 「大丈夫ですよ。驚いただけで」 「ごめんなさい。この子今、障害物を飛び越えるのが好きで」 「いや。こいつがけしかけたって」 天羽はそばに座ったあたるの頭に軽く拳固を食らわせる。 「痛い」 「嘘つけ」 睨まれて舌を出すあたるから、抱かれている柴犬へ眼をやる。 つやつやの毛並み。毛先がキラキラ光っている。 くりくりの目。 「ほんとだ。可愛いですね。生後？」 「１年ちょっとです。どうもしつけが甘くて」 リンクスと呼ばれた犬は今にも走り出しそうだ。 「ここは多いですね、犬連れも」 「広いですし。散歩にはもってこいですから・・・あ、リンクス」 とうとう犬は逃げ出した。 「すみません、失礼します」 見るともう彼方の犬を、その人は必死で追いかけていった。 「可愛かったなぁ〜。いいよね、犬のさんぽ」 「いいだろ。やっぱ犬にするか」 「えー？」 二人の間でのペット論争は、猫で決着したようでいて、 まだ現実にはなっていない。 「猫じゃさんぽはさせてくれないだろ」 「あ・・・そうだよね。猫はきままだしつきあってはくれないよねぇ。 うー、犬もいいかなぁ・・・」 また悩み始めるあたるの髪は、光を弾いてキラキラしている。 水を含んだような肌とくりっとした目。 「・・・まぁ、俺はこれでいいかな」 「何か言った・・あぁっ？」 考え込んでいたあたるが聞き返すと同時に、 伸ばした腕がその腰を捕らえて、自分の上に引き倒す。 「おまえのさんぽで手一杯？」 鼻先を押しつけ合うように言われて、 あたるが一瞬で真っ赤になった。 「あたしは犬じゃ・・」 「猫でもいいけど」 「猫でもないっ。やだ、人が見てるっ」 「いいじゃん、羨望の的？」 「ならなくていい〜っ 良之ぃ〜っ」 わめきながらも無理には逃げない。 わかっているから腕を解かない。 どっちもどっち。 ふたりの今日は、さんぽな１日。 ＜ 10 / end ＞ |
★あとがき★
ああ、甘いだけ（蹴）
実はベタベタしてるのは天羽さんの方・・・だよねぇ(^^;)
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