03. ホーム（駅） 千早×志緒 （軌跡・モザイクカルテット） 03. ホーム（駅） 千早×志緒 （軌跡・モザイクカルテット）
大学最寄りの私鉄線駅。 上りのホームに立ったら、向かいに千早が見えた。 あれ。 本を読んでる彼は、あたしに気づいてない。 「千早ーっ」 線路二つはさんだ向こう。千早が顔を上げる。 あたしの顔を見て、おや、って顔。 「どこ行くのーっ？」 「友達に逢いにー。おまえはー？」 「バイトーっ」 地下鉄の乗換駅もあるここは、人が多くて。 大きな声をはりあげているあたしたちは、 やたら目立ってるけど。どっちも気にもせず。 「ねーっ、明日は大丈夫ーっ？」 「オッケーオッケー。そっち行くからー。晩飯よろしくーっ」 「げ」 不意に小さくなったあたしの声に、千早がニヤッと笑う。 このやろう。 覚悟しろ。 「死んでも食べなさいよねーっ」 志緒さまの料理を甘く見るんじゃないわよ。 いや、絶対甘くはならないし。 「俺は死んじゃまずいでしょーがーっ」 あ、そうだった。 じゃあ。 「三途の川の手前でたいらげなさいーっ」 「了解ーっ」 縁起でもない単語にギョッとしている周囲を救うように、 あたし達の会話は入ってきた電車で遮られた。 上りと下り。互いに乗り込むと奧の扉へ。 ガラス越しにまた出逢って笑い合う。 あっという間に電車は動き出す。 上りと下りへ。 ま た あ し た ね ま た あ し た な 追いかけていた唇は、すぐ見えなくなったけど。 代わりに流れ出した風景を見ながらずっと、 あたしの口元の笑みは消えなかった。 ＜ 03 / end ＞ |
★あとがき★
ある日の二人。素直に甘く（笑）
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