01. 砂の城 右生×彩芽 （水曜日の恋人） 01. 砂の城 右生×彩芽 （水曜日の恋人）
サラサラと。 乾けば崩れ落ちる形。 湿らせて固めなければ作れない。 砂の城。 「おまえ、よく泣くな」 「へ？」 やっと納まった息。腕枕したままの密着した体と体。 そんな状態でいきなり言われても。 「怒っても結局泣いてるし。喜怒哀楽がジェットコースター？」 「そ、そんなことない」 「ある」 決して甘くない雰囲気で言い切られて、彩芽が悩む。 あたしそんなに……泣いてるかも。 確かに、右生と逢ってからの日々の方がそれまでよりもずっと。 ちょっと反論させてもらえば。 「穏やかってのが定評なんだけど。いままで」 「何が」 「性格。友達とか家族とか」 「猫かぶってましたって？」 「そんなことない」 「ある」 また言い切られてしまった。ほんとなのに。 ほんと。 …どれが？ 修ちゃんのそばで笑っていたあたし。 右生に向かって泣き喚くあたし。 家と仕事場を往復してたあたし。ホストクラブへ通うあたし。 無駄遣いを避けた堅実なあたし。 ６００万をばくちに放り投げるあたし。 それも。どれも。 あたしなのに。 あたしなんだ。 幸せだと思っていた頃は、怖がってもいた。 今ならわかる。 穏やかな日々はいつまで続くんだろうと。 どこまでも続くと信じていたつもりで、 信じてなかったのかもしれない。 「ずいぶんと長々隠してたんだな、本性」 「隠してないって。化け猫みたいにいわないでよ」 「やっぱそうじゃん」 クックッと笑いながら額に落ちる唇。 髪を撫でる指。 あなたとのこの関係だってほんとうとは呼べない。 あっけなく崩れた修ちゃんとの城と同じく。 涙。 傷から滲む血。 蜜と汗。 それがなければ、乾いて崩れ落ちる。 どちらも同じ。 「右生？」 「何」 「砂の城って作ったこと、ある？」 「あぁ。すぐ崩れるのな、あれ」 「…うん」 「で、また作る。前よりでかいの」 「…そう？」 「波に喧嘩売りながらさ。負けるもんか、とか」 「…そだね…」 「最後に作るのが、一番でかい」 見上げた彼は笑いもせず。 どこかを見てる。 「崩れたら、作りゃいいだろ」 「…うん」 作る形は似ていても。 作るあたしは同じじゃない。そう思いたい。 だから次はきっと、もっと大きく。 もっと綺麗に。 それがたとえ、砂の城でも。 ＜ ０１ / end ＞ |
★あとがき★
どこまでも微妙。曖昧。グレーゾーンな砂色の二人です。
時期的には出逢って一月過ぎたあたり……かな。
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