光が目を覚ますと、外は夜が明けたばかりのようだった。カーテンの隙間から射し込む明るさは微かで、静かだ。

　光の前に横たわる白い背中。一緒にかぶっている布団から肩胛骨がのぞいて、浅く上下している。そこにかかった髪も一緒に。

　今の彼女は、内側から輝きを放つ真珠のようだ。
　体内に命を育はぐく　む女性の美しさ。

　光はそっと、背中から葵を抱き抱えた。パジャマの裾から忍び込ませた手で、丸みを帯びたお腹を包み込むと、いつものように心で話しかける。

　（ええ子にしとるか？　早う会いたいわぁ）

　光の手に手が重なった。つぶやく声が甘い。

　「おはよう」
　「かんにん、起こしてもうた。寒うない？」
　布団を覆うように引き上げると、眠そうな声がおかしそうに変わる。

　「寒いわけないでしょ。ゆたんぽに抱かれてるのよ。あなたは？」
　「俺も湯たんぽ抱いとる」
　「湯たんぽ夫婦ね」

　クスクス笑ったら、ふたりの手の下がぴくんぴくんと動いた。目を見合わせてまた笑う。

　「自分も入れてって」
　「気ぃ強そうや。葵に似た女の子とちゃう？」
　「優しい男の子かもね」
　「一姫二太郎がええなぁ、桐姉とこみたいに」
　重ねた手、重ねた結婚指輪がこすれあう。

　桐子は九月に男の子を産んだ。守と夕花はもちろん、源家も、日高家まで大喜びだ。『護秋　もりあき』と名付けられて三ヶ月になる。

　こないに小さいんか。
　こないにみるみる大きゅうなるんか。

　光は、夕花の時とはまた違う畏敬と感動を覚えながら甥っ子を可愛がり、自分たちの子どもに思いを馳せた。葵の体に触れる時も同様だ。なんてすごいことだろう、なんて素晴らしいことだろう。その繰り返し。

　宇宙の神秘。命の謎。
　それを目の当たりにする幸せを得た、幸運。

　葵との新たな命が産まれてくるのは、来年の春だ。
　ちょうど結婚して一周年の頃。

　「待ち遠しいなぁ」
　「そうね」

　くすぐったそうに笑いながらこっちを見る葵の、ピンクパール色した唇に、光は口づけた。柔らかく、温かく、包み込むように。
　細い腕が首に巻きつけられる。


　ピンクパールに空を染めながら、イブの太陽がゆっくりと昇り始めた。





　　　　　　　　　　　　　　　　　＜　pink　pearl　eve　/　end＞