イブの夜。
キングがマンションの鍵を回したとたん、二つの足音がすごい勢いで走ってきた。
ドアを開けるとそこにいるのはもちろん、彼女と猫だ。満面の笑みのショーコと、いつもと同じ風を装ったジンが、並んで待ち構えている。
「おかえり!」
「んにゃあ」
手を出しているのを見ると、待っていたのは自分か、ケーキか?
わけもなく笑ってしまいそうになる顔だ、どっちも。
すでに笑っていたらしく、ショーコがぷうっと膨れた。
「なに笑ってるの」
「いや」
「やな感じ」
「考えすぎだろ」
待ちこがれているショーコにケーキの箱を渡して、吹き出さないうちに自室へ向かった。後ろから「やったー!」と歓声が響いて、ショーコとジンの足音が踊りながらついてくる。
いつのまにか、これが当たり前になっている。
一番笑えるのは自分自身だ。
着替えてからリビングに戻ると、灯りが消されていた。ツリーにはキングの記憶そのままの飾り。キングの好きなジャズが流れている。シャンパンにチーズ。もちろんチキン。キャンドルもお気に入りの香りだ。
なんだか全部見通されてるような。
でんと皿に載せられたケーキは、チョコレートケーキだった。ショーコは生クリームを選ぶと思ったんだが、こっちの方が美味そうだったんだろうか。二人でリングケーキはかなり多い。多すぎる。四等分した一切れでも相当だ。
「ねえ、ジンは食べられない?」
「ジンは食べないだろ」
「そっかぁ、残念」
シャンパングラスをチン、と鳴らした。
ビジュの宝石のようなケーキを、散々ほめてからナイフを入れた。
ジンは、今夜のために用意されたらしい、豪華なキャットフードを前にして、冷めた目でショーコを見つめている。そんなものが美味しいのか、とでも言いたげな目つきをものともせず、ショーコが大きく開けた口で切り取ったケーキをぱくりと食べる。つられてキングも一口。
「美味いな」
ショーコがぱっとこっちをみた。その嬉しそうな顔。
「美味いだろ?」
「うん!」
一段と嬉しそうになったショーコがおかしくて、不思議だ。よかったぁとつぶやきながらまた、パクリ。美味しいものは美味しいけれど、誰かと食べるとさらに美味しくなる。それがこの頃のキングの発見だ。
「そうだキング、プレゼントがあるの!」
あれだけ好きなケーキを食べかけで置いて、すっとんでいくショーコ。
皿を空にしたジンがキングの横で、少し眠そうに、あくびをしている。
これが今年のクリスマス。
いいな。来年も。
そう願っている自分にキングは驚いた。
商売で先を読むことはしても、人生の先を夢見ることなど、もうないと思っていたのに。今、間違いなく自分は夢見ている。願っている。来年を。
鬼に笑われそうだ。
くわばらくわばら。
全力で駆けてくるショーコの足音が聞こえる。
こっちのプレゼントはいつ、出そうか。
ジンを撫でながらタイミングを計るのが楽しい。
そして来年も、三人でと。
イブの夜。
キングは確かに、そう願っていた。
< Merry Christmas to you. / end >
|