キングの携帯を見るたび、キング自身によく似ているとショーコは思う。シンプルでシックでがっちりしているのにスマート。地味に見えて意外な部分にお洒落が施されている。侮れない。

でも当人はあっさり言い放つ。


「俺にとっちゃただの連絡用ツールだ」

本心なのだろう。友達と写メなんて考えられないし、データフォルダは仕事がらみで満杯かも。それはそれで彼らしいが。


「ねー、なんで待ち受けがジンの写メなの？」

そう。そこは是非突っ込んでおきたい。


「可愛いだろう」
「う。　そ、りゃまあ」

否定できなかった。現在いま　のふてぶてしなど微塵みじん　もない、子猫だったジンの愛くるしさは一目でショーコも感嘆した。でも。


「……ねえ。あたしの写メ、撮らない？」

片眉を上げたキングの面白そうな顔つき。


「うー。じゃあじゃあキングを撮ってもいい？」
「好きにしろ」

喜び勇んで写メした画像を、待ち受けにしようとして気づいた。これじゃMan　Hall　や他にも山ほど居るキングのファンと変わらない。撮られることに慣れているキングは、全く気にせず仕事を続ける始末。つくづく彼の特別になるのは難しい。


「やっぱりあたしの写メ送る」
「どうした？」
「いいから！」

できるだけ可愛く笑った自分の画像を有無を言わさず送りつけると、確認する彼に釘を刺した。


「消さないでよ！」
「わかった」

クスクス笑う彼がどうにも憎たらしいが今のショーコはこれが精一杯。口をとがらせ見ているうちに、前にはなかったはずのモノを見つけた。


「それどうしたの？」

金のチェーンと留め金につながれたパールが一粒。およそ男性っぽくない、逆だ。女性にこそ似合いそうに見えるストラップ。


「これか。注文して作ってもらった」
「キングが？」
「ああ」

「なんだかキングのイメージじゃない」
「だろうな。似合わないところがいいだろう」
「……どういう意味よ」

意図がわからない。ちょっと拗ねてからショーコは聞いた。


「あたしも欲しい。それいくらするの？」
「注文したと言ったろう。　一点物だ」
「えー？　なんでそんなに気に入ってるの？　同じの欲しいー」

物欲しげに羨うらや　みも込めて散々言いつのっても取り合ってくれず。キングは笑うだけだった。彼を落とせるのはまだまだ先かとショーコはがっくりうなだれた。



目の前に晒されている事実に人はなかなか気づかない。
送りつけた写メをキングが別のフォルダに移したことも、ストラップの意味も、ショーコはきっと知らずじまい。


シックでスマートな彼の携帯。
そっと寄り添う一粒のパール。
大人になれば、大人だからこそ、恋はますますセンティメンタル。





　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜　Sentelimental-movile　／　end　＞