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Jin said  '' I am cat''.



私は猫だ。
名前はジン。

キングと呼ばれる主に飼われて何年になるだろう。淡泊で冷静な猫らしい猫だと自負しているが、この頃はそんな自分らしさを見失っている。

私は怒っている。なぜって? 縄張りを荒らされて怒らない猫などいない。いるわけないのだ。主のベッドは私の一番の縄張りのはずなのに、このところ必ず邪魔者がいる。いつのまにこんなことになったのか、油断も隙もありはしない。



もともと主は留守がちだ。一日おきにやってきては掃除片づけをする人間が、私の水やご飯も用意してくれるので困るわけではないが、それにしても居なさすぎた。私を拾ったのは主なのだから、顔を忘れられないようにするのが義務のひとつだと思うのだが。どんなに優れた飼い主といえど欠点はあるということか。中でも彼女を拾ってきたのが主の最大のミスだとこの頃思う。

拾われたくせに居なかったのは彼女も同じで、ふたりは代わる代わる不在を繰り返していた。どうやら戻ってきたのは彼女が先だった。少しやせて寂しそうで、でも少し大人びて見えた。だからといって子どもっぽさも消えず、主の帰りを待ちわびる彼女の気持ちは行動の端々から締まりの悪い蛇口みたいにぽとりぽとりと雫になった。独り言とかインターホンに飛びつくとか、人恋しげに私にふれる指先にまで、恥ずかしげもなく。


私は猫だ。人間がいようといまいと知らん顔でそこに居て、戻ってきたら鼻で笑っていつものように迎えてやるのが猫だ。だが私だって誰もいない家での長い長い留守番は飽きるし、楽しいものではない。

だから彼女のことも猫らしく、ちょっと冷たくちょっと温かく迎えてやった。それから私たちは一緒に主を待った。私の方がずっと主を心待ちにしていたと思う、彼女よりも。


なのに、やっと戻ってきた主は彼女と部屋に籠もってしまった。これをずるいと言わずになんと言う。しびれを切らした私が抗議の声を上げ続けドアに爪を立てると、鍛えた半身をさらしてやっと主がドアを開けた。

懐かしい太陽の色の瞳。抱き上げてくれた主の肌から彼女のにおいがした。きっと今、彼女は主のにおいをまとってベッドにいる。


ああと思った。
彼らはようやく番
つがい になったらしい。


私は猫で、彼らは人だ。嫉妬してもしょうがないのにひどく胸が痛んだ。子猫の私を拾ってくれた主を私は本気で慕っていたのかもしれない。私を優しく宥めながら、朝食を用意してくれる彼の腕はもう、私ひとりのものではない。その事実は寂しかった。



以来、彼女は我が物顔で、何かというと主のベッドに居座っている。腹は立つがしょうがない。金の瞳がかつてない満たされた輝きを放っているから許すことにする。それが大人の猫、大人の女というものだ。

もちろん私だって遠慮なく縄張りは主張するし、憂さ晴らしに爪をたててやる。思い出したように私の機嫌を伺う彼女には、この複雑な気持ちはわかりはしないだろうけれど。



私は猫だ。
人がどう思ってるかは知らない。でも。
猫も楽じゃない、ほんとうに。





                     < Jin said  / end >





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